2回の鑑賞終えて記録。
酷評されているところもよく見るが、何に注目して見るかで評価は大きく変わると思うので、私は少し高めの評価になった。音、映像の演出がなんといっても良い。演出に少し寄った映画だと感じたが私はそれが好きだった。
話の盛り上がりと歌の盛り上がりが相応じていたのでストーリーに没頭したい人は少し毛嫌いするシーンがあったかもしれない。
サマーウォーズに似た後半から手に汗握る流れをした作品であったと感じた。ラストにかけて現実と仮想世界の人物関係が暴かれていき、それを理解をするのが少し難しい場面があった。伏線を回収していく場面が台詞なしの瞬間的な映像と音楽のみで見せていたので、忙しく目まぐるしい映画だとも感じた。
(詳細な感想)
●中盤から後半にかけては少し退屈と言われても仕方ないような我慢の必要なシーンが多かった。特に竜の正体は誰かというところで疑われている者がそれぞれ取材され真実に迫っていくというシーンは長い と感じ、忙しかった後半シーンを補足すれば良かったのではないかと感じた。暴力男との対峙シーンは根本的な解決が出来てなさそうな気がしたのでそういう部分に回した方が良いと思った。
○決して簡単に予想できる展開ではない。家庭環境の似たすずと竜の少年の交わるないはずのない世界がUを通して繋がる。後半から現実世界に繋がっていくが現実世界には多くの困難が立ちはだかる。そこを繋ぐキーパーソンとしてしのぶという存在がいた。ここは少し分かりにくかったが良かった。
●裏切りを狙うセリフが多くあったので少し紛らわしいとも感じた
○主人公のすずの存在が魅力的で、か細く冴えない雰囲気があるがどこか人を惹きつける芯の強さを持っていた。ボサボサの髪をしたまま歌うラストシーンもそんなすずの魅力が最大限に出ていた。
●ラストの合唱シーンの後半すずとbelleとの移り変わりにも少し納得がいかないシーンがあり、いつの間にかbelleに姿が変わりすずの姿はなくなっていた。
●美女と野獣ではあったけれど決して恋愛映画ではないと思えた作品で仮想現実で美女と野獣の世界観を表現するのであればもう少し仕掛けがあって欲しかった
●最後の東京へ向かうシーンでは何も助けてくれない警察、周りの助けを一切必要とせず飛び込むすずの姿に監督からのメッセージが込められていたのかもしれない。竜とbelleが顔を見つめ合うシーン、一人で物語を終わらせにいく主人公はまるで千と千尋の主人公のような姿があった
●最後の東京シーン、すずの顔を引き剥がして見た後の暴力男の表情や行動に違和感を持った。belleが目の前に現れた事に驚いたのか、belleを威嚇しているのか、自分が惨めになったのか等が分かりにくいまま男は去っていってしまった
○SNSの人をここぞとばかり批判する負の部分もあれば「私と同じだ」という仲間が増えていくプラスの部分も描かれていた
ここらは高い評価の原因になった演出の好きな部分になるが、
・序盤のシーンは背景固定で人のみが動いているシーンが多く客観的な映し方だった。その後のすずの友達の全てを俯瞰したようなセリフの連続も、冒頭のど派手な引き込まれるbelle登場シーンとは対照的で観客を置いてけぼりにしないバランスの取れた導入になっていた。終盤にかけては定点シーンが短く目まぐるしく切り替わっていっていた。
・中盤からラストに転じる際に(竜の正体を暴いていくところ)テンポの上がっていくような曲と展開によって盛り上げがってきたところは気持ち良く、後半に向けて中盤から切り替えることができた演出だった
・サマーウォーズのOzがUになり仮想現実の世界がさらに迫力を増して描かれていた。バーチャル都市のビルを電子基盤のようなもので表現し、空間はワープして変わっていく事で3次元を超えたような広がりを感じられた
・SNSのリアクションや批判コメントが主人公の主観で描かれているところもあり、始まりのbelleが歌い出すシーンなんかは周囲の心ないネガティブな発言ばかりが取り上げられてしまう部分も入り込めたシーンだった
・Twitterのコメント欄を表現したような、ツイートとリプが群になって画面に現れるところは面白かった
・belleの歌のシーンはほぼ生歌のような曲が多くセリフなのかどうかも分からない、歌えない主人公という事だったのでそこがオーソドックスなミュージカル映画とは程遠い演出で良かった。歌い手さんの透き通るが強い芯の通った歌声に包み込まれ主人公そのものを表現出来ていた
・仮想現実の世界では人間の内側に抑圧された強さや才能などの内なるものがあふれる世界でそれを表すべく月によって照らされた裏側の世界が表現されていた
・ラストの合唱のYOASOBIのボーカルのコーラスのシーンはかなり良かった
・冒頭はミレニアムパレードによる獣のような野生的な音楽と細部まで作り込まれた迫力のあるな映像美で映画の世界に無理矢理引き込まれた
・すずが成長していく中で母との重なり、竜の少年の重なりがサブリミナル的に移されていて揺れる心の内や葛藤が表現されていた
この映画は演出家細田守ならではの作り方がなされたのかもしれない。軸がしっかりと通った作家的な書き方ではなく演出を中心に物語が構成されているような作られ方なのではないかと思った。演出家として秀でてるからこそストーリーの整合性を欠いたものになっていたのかもしれないが私はそれがとても好きだ