銀の森

MONSOON/モンスーンの銀の森のレビュー・感想・評価

MONSOON/モンスーン(2020年製作の映画)
3.7
6歳まで住んでいた故郷ベトナムを、異邦人のようにめぐるキットの目から見るベトナムの風景は騒然と慌ただしさに包まれつつもどこか孤独で傷を負っている。それは過去にアメリカとの戦争で負った傷でもあり、その傷が世代によっては共有されていないという傷でもあるのかもしれない。

故郷から逃げざるを得なかった人たち、かつての戦地に吸い込まれるように移住せざるを得なかったアメリカ人。戦争は勝った側にも負けた側にも深い傷を残す。それは勝ち負けでは計れない、負の連鎖。

それでもベトナムの街は熱気と活気に満ち溢れ、エネルギーを放っている。その中に潜む陰をキットは取りこぼさずに見つめていく。ベトナムで生まれつつベトナム語をほとんど忘れてしまったという非対称さ。彼が触れ合う人々もみな影の部分を背負っていて印象的だった。
アートがしたいけど家業を手伝わなければならない女性、キットの母にお金を借りて携帯屋を始めた幼馴染、父が戦争でベトナムに赴きその後もその記憶に苦しめられやがて自死したアメリカ人の息子…彼らがふと漏らす言葉が重く切ない。戦争の時代を知らなくてもわたしたちは、社会で生きる限り歴史を背負っているしその制度に加担している。できることは、そのことを忘れずに生きていくことだけなのかも知れない。

とても静かだけれど、その後ろにある戦争の歴史の重さも抱えた映画だった。これを美しいとだけ表現してしまうのも違うと思いつつ、ベトナムの街のエネルギーに元気ももらった。
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