カミュの「異邦人」をヴィスコンティが映画化したDVD化されていない幻の作品。
「異邦人」は中学生の夏休みの感想文のために読んで引き込まれた。
不条理文学の代表作をヴィスコンティがどう作品にするのか、貴族を扱わない作品というのも数少ないので楽しみにしていました。
カミュの遺族の願いもあり原作に忠実に作っており、ヴィスコンティ自身も不満で失敗作とも言われています。
異邦人をわかりやすく具現化してくれたというだけでも観たかいがあった。
主人公ムルソーを演じるのはマルチェロ・マストロヤンニ。恋人役にアンナ・カリーナ。両者の水着ショットは貴重!
舞台はフランス統治下のアルジェリア。
養老院に預けていた母が死んだため、主人公のムルソーが引き取りに行くところから始まる物語。
母の死を悲しむこともなく、翌日には恋人と海水浴へ行き、喜劇映画を観て一夜を過ごす。
ある日アラビア人を射殺した彼は、法廷でその理由を「太陽のせい」と言う。
そんな非人間的な行動から死刑を宣告されてしまう…。
ムルソーを演じるには、マストロヤンニは顔から優しさや甘さが滲み出すぎている。フェリーニの作品の方が合ってる気がする。
原作のムルソーは生きることに虚無な男で、恋人に「愛してる?」と聞かれても「愛していない、意味がない」と受け流す。もっと冷酷さを持ち合わせた俳優なら、全然違うテイストになったかもしれない。
でも、獄中での死の恐怖から死を享受するまでのシークエンス。神への改心を拒否する姿や、一筋の涙とわずかの微笑みは、人間味のあるマストロヤンニだからこその名演だと思った。
私自身も信仰心がないので葬式に意味を見いだせないし、ムルソーが最後に牧師を拒絶した気持ちがよくわかる。だから、獄中のシーンは共感できて好きだった。
裁判ではムルソーを非難する検事や人々が愚かに見えた。ヴィスコンティはわざと大仰に演出してそう思わせたのかな。
社会から見たら「異邦人」であるムルソーは、誰よりも正直に生きている唯一の人間だったんではないだろうか。
価値観とは、を突きつけられた作品でした。
この物語の根底には当時のアルジェリアの社会情勢、信仰心や思想の相違などがあり、そこにはカミュ自身が投影されているのだと思う。
画面から伝わる灼熱の太陽とうだるような暑さ、したたる汗。それと対比するかのような獄中での暗闇と冷ややかさが強烈に印象に残った。
この作品が観れたこと、それだけでも満足です。