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アメリカン・ユートピアのakqnyのレビュー・感想・評価

アメリカン・ユートピア(2020年製作の映画)
5.0
あまりに複雑で繊細で不完全でだからこそ愛おしい。デイビッドバーンによる最高の人間讃歌だと思った。
文字通り音が楽しいと思う音楽体験は生涯で何回あるだろう。間違いなく今年最高の映画で、映画館で見るべき作品。

我々人間をそぎ落とした先にある生の存在そのものを見ているような、そして自分の中の生の存在同士が共鳴するような衝撃で、なにか一つの哲学的境地に達したようなバーンと彼のバンドの表現力は本当に素晴らしかった。


テーマの一つは「生」でもう一つは「超越」を感じた。
映画を見ていてHomeとかHouseという単語がこんなにも多用されているのかと驚いたが、家とか居場所のようなある種の囲まれた関係性と、それを超えていくことの必要性、必然性、アメリカという国を超えた世界市民、地球市民としての一つの人間存在であること、またその不完全さと同時に生命の力を再び取り戻すようなそんな力を感じた。
アンプやコードを繋がないで、何もないステージを裸足で躍動し、すだれに囲まれた境界を超越していくラストへの流れは本当に鳥肌ものである。


一方で、白人の老人男性というステレオタイプであるバーンが、黒人やラティーノの若者や女性とこのメッセージを伝えていることが何よりでもあるが、アメリカンユートピアというタイトルがある意味逆説的に今のアメリカを映していること、スパイクリーが監督であることからもこの映画のメッセージは明確に政治的であることも忘れてはいけないと思う。
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