ブラックユーモアホフマン

アメリカン・ユートピアのブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

アメリカン・ユートピア(2020年製作の映画)
4.6
デヴィッド・バーンはいい感じのお洒落面白おじさんになっていた。
なんとなくイッセー尾形とか升毅さんみたいに見えた。

『ストップ・メイキング・センス』と比べての話になるが、
トーキング・ヘッズとしてのライブではなくデヴィッド・バーン単体のショーになったことでより演劇度が増している。
さらに現代のアメリカ社会及びトランプ時代の切迫感もあってよりメッセージ性が伝わりやすい表現になっている。
またこのショーのコンセプトとして舞台上と客席=Me & Youの構図、つながりを大事にしている。

ので、
『ストップ・メイキング・センス』のようにただ音楽を映し、観客の存在を薄めにして、舞台上をある種映画的な空間として撮るというアプローチはできなくなっている。
それ自体はこのショーを撮る上で間違いなく正しいアプローチだと思うのだが、あくまで好みとしては『ストップ・メイキング・センス』の方が好きだった。

こちらは意味がありすぎるというか。ちょっと説明的すぎる気がしてしまった。
これは昨日観た『ファーザー』とか、この前観た『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』で感じたことにも通ずる話だと思うのだけど、真面目なテーマを扱ってそれを伝えようとするほど、アートとしては不恰好になる。でもそんなこと言ってられない現実なのも分かる。

しかしデヴィッド・バーンのMCはユーモアがあって面白かったし、解説があってこそ歌詞の意味が入ってきたので、まあ良かったと思う。おかげで感動して泣いちゃったし。いちいちお客さんに感謝するのも、律儀な人なんだなーって感じで良かった。

デヴィッド・バーンは、さすがに動きのキレが無くなっていた。まあ仕方ない。でもその点はやはり『ストップ・メイキング・センス』のバリバリの時代の映像の方が面白かった。
線を排して我々は自由に動けるようになった、って言ってたけど、有線だった『ストップ・メイキング・センス』の時の方が自由に動いてたように見えたのは、単に若さのせいなのだろうか。
しっかり振り付けされていることでむしろ身体の自由を失ってしまっているような気はした。

あと正直、カメラワークや編集は気持ち良くないなと感じるところも多かった。そこは歌ってる顔のアップが見たいな!とか、ここは客席からどう見えてるか見たいな!とか。

ちゃんとスパイク・リー監督作品でもあった。ジャネール・モネイが作ったプロテストソングをカバーするのも良かった。「年長の白人男性が歌っていいか?」とちゃんと聞いたというエクスキューズも素晴らしい。
可能性と変革についての歌だと。自分自身の内面も変革していかなければならないのだと、この年、この地位になっても言えるデヴィッド・バーンが素敵だ。

なんだかんだ書いたけど、曲は素晴らしいし、メッセージも素晴らしくて、超絶感動しました。

【一番好きなシーン】
投票率の話からの、「TOE JAM」からの、メンバー紹介の流れ。