鮭茶漬さん

クライ・マッチョの鮭茶漬さんのレビュー・感想・評価

クライ・マッチョ(2021年製作の映画)
3.5
近年のイーストウッドは、まるで贖罪をテーマにしているかのように映画を作る。『運び屋』では実娘を起用し、家庭を顧みない老人を演じることで、家族への償いの意図が窺い知れたし、『グラン・トリノ』では移民との交流を持つことで、保守思想の彼からすれば異様なメッセージを感じ取ることが出来る。
2020年の米紙ウォールストリート・ジャーナルのインタビューで、トランプ大統領ではなく、民主党ブルームバーグ前NY市長を支持すると表明するなど、私生活でも変化が見られた。もちろん、トランプ前大統領の下品な振る舞いに対する抗議ではあるものの、共和党の熱心な支持者で知られるイーストウッドとしては意外だった。

しかし、何も共和党支持や保守思想がダメだとは思わない、イーストウッドは強いアメリカの象徴であり、そのスマートな容姿は誰しもが憧れる英雄に違いなかった。そのヒロイズム増を半世紀以上も維持し続けているのだから、まさに偉人である。この『クライ・マッチョ』も、『グラン・トリノ』然り、異民族であるメキシコの少年との交流を描き、そして過去の自分を浄化させるメッセージを感じる。

少年からの「昔は強かったんだろ?」と問いを肯定しつつも、「本当の強さは力ではない」と言うイーストウッド。「ローハイド」を始めとする西部劇で世界を魅了し続けた“マッチョ”の象徴が、その生きてきた轍を否定しているわけだ。コロナ禍、ウクライナ情勢など、世界から民主的で冷静さが失われつつあり、力こそ解決方法だとされる気運が高まる昨今において、そんなことよりも、内なる秘めたオブジェクティヴな行動こそマッチョだと諭す。これは劇中の主人公の虚構ではない、イーストウッドの現在地点そのものだ。

まさに、信頼、信仰、愛情など、人生晩年の強くも美しい生き方を示す。こうも格好良い人間でいられる、その御大の姿に痺れる。御年90歳超なのに、こうも色気ある男像を示し、映画を通じて、今の世の中を問い続けさせ、後世に何かを残さんとするイーストウッドに感銘するばかりである。

年齢がそうさせるのか、イーストウッド作品の中でも、特に物静かな作品ながら生きる上で肝心なことに気付かされ、心に染みる良作である。

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