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クライ・マッチョのLCのレビュー・感想・評価

クライ・マッチョ(2021年製作の映画)
3.8
面白かった。

誰も信じない。
そう生きていても、いつの間にか心を預けてしまうことがある。
それは、実際に言葉を交わし、視線を交わし、そのように交流する時間の中で、自分が決めていることだ。
母親のことも、母親の連れてくるおじさんのことも、家の中のことも、路上のことも、きちんと息子さん自身が体験したことで、誰かの話を鵜呑みにした訳じゃない。
主人公がきちんと息子さんを送り届けたのは、父親のことも同じように、彼自身が判断するべきことだからだろう。
1回行って、そこでクソ喰らえなら、クソ喰らえで良い。困った時は俺を訪ねて来い。そんなあたたかな逃げ道は、きっと息子さんの心を強く支える。
いざとなったら、他にも道はある。だからこそ立ち向かえるものがある。

強さを単純に、相手より腕っぷしが強いとか、舐められない言葉遣いで話すとか、誰の目にも明らかな実績を残すとか、そういうところに見つけようとする人は確かに多い。
ただ、どんなに強そうな鎧を身に纏ったところで、強いのは鎧であって、鎧を着けている生身の自分ではないことも多いだろう。
そして不思議なことに、鎧と中身の区別が割とつくのが人間だったりする。
息子さんにとって、鶏はたぶん、鎧だったんだね。鎧を脱いで、生身の自分で立ち向かいに行ったんだろう。自信もつけてもらったし、大丈夫。

嘆くことなく子どもたちに愛を注ぎ、見知らぬ人にまで快く手を貸す。
そんな強さに触れることができたのも、息子さんにとっては柔らかな刺激になったかもしれない。
1人では到底切り抜けられなかった場面がいくつもあるよな。
それもそうなんだが、言葉遣いにも変化が見られたりする。
主人公と2人の時は、メキシコ特有の言葉を使っている場面がある。意味は酷いものでなくても、乱暴に聞こえる言葉。メキシコ特有の言葉とはいえ、基本的に女性は使わない。強さに執着する彼らしさが垣間見える。
そんな彼が、無償の愛で助けてくれる人たちの前では、そのような言葉を使わない。
言葉ひとつでも、彼の内側の変化が何となく感じ取れる。
*因みに Gringo (アメリカ人に対する蔑称)に関しては、メキシコ特有の言葉ではない。中南米ならどこでも聞くことができる。ただ、やはり綺麗な言葉ではない。

主人公が、流れて仕事を託されて、その中で余生を過ごしたい場所に出会えたことが嬉しい。
ゆっくり眠れるベッドは老体に欠かせないアイテムだ。寝起きの腰の痛さが段違い。
あとやはり、風邪引きにくい。ベンチとか地面とか不思議と体べらぼうに冷える。主人公にとって結構過酷な旅だったんではないかと思う。身体中痛い筈だが、文句言わずに歩くし運転するし、タフ。案外50年先も生き続けるかもしれない。
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