アクセルガツキー

泣いたことがないなんて、嘘つきめのアクセルガツキーのレビュー・感想・評価

4.8
たとえば大好きな人が不意に遠くに旅立ってしまう、とか、もっというとすごく好きな人から不治の病を告げられた時とか、人は感情の限界値を越えて無表情になってしまうことがある。泣いたことがない…というのは、そういう「語り得ぬ」感情のことに他ならない。
何を言っているか判らない人は、幸福だと思う。でも、そういう経験をしたことのある人には刺さると思う。深く、深く。その投げかけは、実は普遍的だ。そして表現とは、そういう言葉にならない感情をなんとか具象化することにこそ可能性があると思う。
言葉にならないなら、映像にすることだってむずかしい。だけど、本作品では「形に残らない」表現を続けているという語り手を通し、いとも自由に、かくも重層的に伝えてくる。

言葉にならないかもしれない、形に残らないかもしれない、うまく伝えられなかったかもしれない、だけど、それはちゃんと届いてる。…ラストシーンが素晴らしい。お母さん役を演じた女優の存在感が卓越している。
普段はそんなに気にしたり深く考えてはいないかもしれない、大切なことははっきりと確信できないことばかり、だけど、その思いはちゃんと届いているのだ(そして、そう思えた時「泣いたことがない」と自らを責めていた彼女も、きっと救われるのだろう)。

ものすごい才能だと思った。富田監督は、近いうちにとても大きな注目を集めると思う。今、観るべき作品。観ることができてよかった。
才能は…言葉として言うのは簡単だけど、残酷な言葉だ。こういう撮り方をできる映像作家は、(そのポテンシャルにおいても)同時代に世界に何人もいない。そんな才能との出会いに、鳥肌が立った。事実、昨年(ビート・パー・MIZU)はマドリードの映画祭で受賞しているという…
MUSIC LABという枠組みで、この作品と出会えた幸運に感謝したい。素晴らしかった!