フジタジュンコ

黄龍の村のフジタジュンコのレビュー・感想・評価

黄龍の村(2021年製作の映画)
4.8
結論から言うと、全人類に見てほしい。いや、強い言葉を使って恐縮だが、これは、見るべき。
そして条件をつけてよければ、事前情報は何も仕入れず、演者についての知識があったとしたら忘れていただき、まっさらな心と空っぽな頭で見ていただきたい。

同監督の「ハングマンズ・ノット」にはハマれなかったので、正直に言えば、怖いもの見たさというか、ダメホラーが見られるんじゃないかと期待していた。が、いい意味で期待通りだったし、いい意味で期待を裏切られた。

「ハングマンズ・ノット」から幾重にも物語の厚みが増やされ、「あ、そういうんじゃないんで」という境地に達してしまっている。あの作品は暴力について考える隙があった。なぜこんなことが起きているのか、なぜこの人物はこのようなふるまいをするのか、いくばくかの恐怖とともに考えてしまい、物語に没入できなかった。しかし、本作「黄龍の村」は、こうした見る側の薄っぺらい考察などハナから拒否している。見ていただければ、どのくらい徹底された「拒否」かがわかる。この作品が描くのは、理不尽な暴力と、その暴力を凌駕するこれまた理不尽な暴力。暴力は暴力であって、意味はない。

この作品は、共同体に内包された暴力的な視座…といったような、わかったようで何もわかってないけどとりあえず言ってみた的な言説をぶち殴る。「あ、自分らがやってんの、そういうんじゃないんで」とでもいうように、伊能昌幸は私たちをぶち殴り、そんな非効率な暴力を笑いながら、大坂健太がショットガンで私たちの息の根を止めてくれる。スクリーンを通したこの圧倒的暴力を、あの人の良さそうなお顔の阪元監督が描くのが、少しだけゾワゾワして、面白い。

あと何回かは見るつもりだが、もう次の視聴から、「こういう話なの!?」「何を見せられてるんだ!?」というこの驚きと衝撃が薄れると思うと、岩にでも頭をぶつけて、この映画を見たことを忘れてしまいたい。