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あいつと私のodyssのレビュー・感想・評価

あいつと私(1961年製作の映画)
4.0
【ちょっとシュールな面白さ】

石坂洋次郎原作の小説を石原裕次郎と芦川いづみの主演で映画化した作品です。

要するに同じ大学に通う男女二人の学生が惹かれ合って恋愛関係になるお話なのですが、石原の育った家庭の設定が思い切って現実離れしているので、筋書きとしては面白い反面、あんまり現実味が感じられません。ただし、それが欠点かどうかはまた別の話で、糞リアリズムを越えたシュールな面白さがあると私は思いました。

石原の母親(轟夕起子)が手広く美容院をやっている裕福な女経営者で、夫は影の薄い存在。そんな環境で石原は幼いときから経済的には非常に恵まれた育ち方をしますが、その一方でかなり早くから女性関係があったという設定です。

冒頭、大学の心理学の授業で、教授が「自分の小遣いは月1万5千円だが、君たちはどのくらいもらっているのかね」と学生たちに尋ねるシーンがあります。そこで石原は「2、3万ですね」と答えている。つまり大学教授の倍近い小遣いを学生の石原が毎月使っているわけです。大学にもスポーツカーで通っている。いかにもの金持ちの息子です。ちなみに時代は1960年ですから、物価は今の十分の一かそれ以下でしょう。月の小遣いが1万5千円という大学教授も並みのサラリーマンよりは恵まれていたはずですが、それだけに石原が並みではない家庭のお坊ちゃんだということが分かるようになっている。

一方、芦川のほうも女中を雇っている家庭の長女で、自室もかなり広いブルジョワ令嬢ですが、それを別にすれば普通の育ち方をしています。その彼女が、石原の家庭の独特さを知り、やがてさらに・・・・・という展開で、筋書きそのものにだんだん隠されていた秘密が分かってくる謎解きの興味がこめられています。

時代設定が1960年なので、日米安保改定に伴う学生デモのシーンや、それに参加した学生が怪我をしたり、内部で裏切りがあったりする場面があります。大学で学生たちが政治的な議論をするシーンや、夏休みに石原たちがベンツに乗って旅行している最中に、山の中で道路工事をしている土方たちに囲まれて裕福さをなじられるシーンがあるなど、当時の政治的な状況や今で言う格差の問題も顔を出しています。ただしそれらは味付けに過ぎないので、中心にあるのはあくまで石原の家庭の秘密と若い二人の恋愛模様とであることは揺らぎません。

それは言ってしまえば裕福な家庭で育った男女のお話でもあるわけで、二人の育った家が何度も出てきますが、大きさといい、内部の作りといい、またそこで出てくる食事やアルコール類といい、当時の平均的な日本人からするとまさに垂涎の的であるような高級感と豪華さに満ちあふれています。映画を見る楽しみには自分から遠い世界をのぞき見る楽しみも含まれているとするなら、そういう庶民の欲求を満たす作品であったとも言えるでしょう。

特殊な家庭に育ちながらさばさばした男らしさを見せている石原、そしてブルジョワ令嬢として育ちながらちょっと変わった同級生・石原に惹かれていく芦川と、主演の二人はいずれも魅力的ですが、この映画で忘れてならないのは石原の母親役で出てくる轟夕起子でしょう。今で言うキャリアウーマンの走りである貫禄ある、しかし女であり母でもある女経営者を演じて余すところがありません。逆に貫禄のないその夫を演じる細身の宮口精二、そして終盤に出てくるアメリカ在住の実業家を演じる滝沢修など、若い二人を囲む中年の俳優が見ものでもある映画だなと私は思いました。
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