スギノイチ

あいつと私のスギノイチのレビュー・感想・評価

あいつと私(1961年製作の映画)
3.5
どうも不思議な映画だ。大島渚の映画を明るくしたという感じか。
登場人物の台詞は非現実的に流暢で理屈っぽく、決められた台詞を次々と言っているようにしか見えない。
左翼運動が物語の一つの軸になりつつも、作品全体としてはそれに懐疑的でもある。
主人公達がひとたび時代の激流に乗ろうとすると、たちまち暴動や昏睡レイプの犠牲になってしまう。
能天気な青春劇場にときたまびっくりするぐらい暗い物が忍び寄るのだが、裕次郎のネアカさと芦川いづみの純粋さに浄化される。

ところで、裕次郎の育ての父親を宮口精二が演じている。
いつもナヨナヨしていて、経済的にも性的にも妻の支配下にある情けない存在だ。
現在からみてもキツいのだから、当時の父親像からすると論外だろう。
なんでこんな役がわざわざ宮口精二なのかな、と思ったが、終盤のシーンで合点がいった。
裕次郎が本当の父親である滝沢修に腕相撲を挑み、己の出自のコンプレックスを克服せんとしている。
勝敗が決すると供に長年の因縁が解消され、滝沢修と裕次郎の間に強力な父性関係が築かれる中、ひっそりと自分の部屋に還る宮口精二が切ない。
ベットに力なく座り、自分の細い腕をまくって戯れに2、3度曲げてみる動作がまた良いのだ。

ラストの坂道の終わり方もいい感じに幸せ。
結構えぐい内容が多いのだが、ネアカさで清涼させちゃうのは日活映画の特性か?
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