酸化

アレックス STRAIGHT CUTの酸化のネタバレレビュー・内容・結末

アレックス STRAIGHT CUT(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

最初から目がちかちかする点滅から始まり、単なる娯楽として消費される平穏な(単なる復讐をしてすっきりするか、復讐の虚しさを訴えかける)作品ではないなと分かりました。
(ルクス・エテルナみたいに頭がくらくらして個人的には好きな表現ですが、苦手な方はお気をつけくださいと思いました。)

パーティに向かう前のやり取りも男性が肉体的には優位なじゃれあいが多く、電車内の会話もどこか噛み合っていない(お互いの話を遮って話し始める、たとえなどがいまいち伝わっていないと思われる受け答えがされる)気がして日常に潜む身体的な力の差や、楽しいと思ってしている会話も本当は暴力的(身勝手)であったり、自分に都合のいいところだけ聞き取っているのではないか?日常のささいだと思うことにも暴力性が実はあるのか?と精神がざわつく感じがして、何が原因なのか分からないのに不穏な雰囲気がすごくてとても素敵です!

パーティでのざわざわした場面から酔っている、音楽や明かりで認識が混乱しているような気がして、周囲が楽しんでいる場に馴染めない違和感があって、監督が日常にある情報量の多さに惑わされて、ぐらぐらする感覚と不安感を映そうとしているのが好きだと改めて思いました。(監督の真意は分かりませんが...)

性暴力の場面は今まで見た様々な作品の中でも、現実味があって本当に嫌な気持ちになりましたが、真正面から暴力をしっかりと「性暴力(暴力)は理不尽であり、不条理であり、弱者に振るわれるものであり、都合よく助けはこない、ひどく身勝手で痛々しく、死の危険と痛みを伴う行為」と表現されていてこうした暴力への向き合い方に息を飲みました。
(暴力を描くのがいい・わるいというわけではなくも、物語から外れた現実の暴力はこういうものだと都合よく暴力を解釈せずに、暴力の嫌な面に向き合っていると感じました。)

その後の復讐に向かう場面から容赦ない同性愛者への差別、移民(違うかもしれません)への差別をふるいつつ、ぐるぐるとあちこちを映す映像に何が起こっているのかわかっているはずが、何も分からずに怒りや不快に頭をかき乱されている気持ちになってすごかったです。
最後の頭を叩き潰す場面も、相手が本当に犯人だったのかというよりも、誰かに怒りや恨みといった感情をぶつける先がほしかったのではないかなと感じ、どこか虚しくもこれからの何かが終わったような気持ちと、すべてを暴力と激情に任せてしまったという絶望感がありとても好きです。

「時はすべてを破壊する」というのは、監督が今が続くことはありえない、生きていて時間が進む限り何かしらがきっかけでここまで生きてきて積み上げたものが崩壊するのを見せてやるといった強さ・作品を通して伝えたいこと(暴力や崩壊、絶望、喪失、憎悪)が含まれているようで、よく分かっていなくて言葉にはうまくできないのですが、印象的でした。

映画や映像作品の概念、物語という枠組みさえも破壊して絶望や怒り、憎しみ、虚しさを含んでいるような作品で、見終わった後もいろいろと考えてしまいます。
あと長回しが多くて作品から目が離せなかったです。
まとめるとすごく好きでよかったです!
酸化

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