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ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカットのmのレビュー・感想・評価

2.0
都市伝説的なものだったはずが、HBO maxのこけら落とし作品としてまさかの現実化。

6話+エピローグの7部構成となっているのは、アメリカでは1本の作品ではなく全6話+エピローグのリミテッド・シリーズとしてHBO maxで配信されている為。これある意味的確な判断で、観ると分かるのだけど1本の映画(あるいは本来の構想通りの前後編2部作)として観ると冗長すぎて観ていられたものではない。6分割して1話ずつ自分のペースで家でのんびり観るのが一番適している作品だと思う。

ジョス・ウェドン監督がザック・スナイダー監督の跡を継いで追撮・改造した劇場公開版(以下 ジョス版)とどうしても比べてしまうけど、比べても比べなくても今作(以下 ザック版)の感想はそんなに変わらない。以下に比較しつつザック版の美点・欠点を挙げていきます。


○美点
・映像のルック
これに関しては文句無し。ジョス版では完全に暗部を無くしてペラペラにされていた映像が、コントラストばっきばきで彩度を抑えた渋いザック風味に全編変更。クライマックスの空もちゃんと暗くなってます。ザックの最新作「アーミー・オブ・ザ・デッド」よりもルックやカメラワーク、構図は遥かに優れているので、結論としてはザックはやっぱりちゃんとしたプロの撮影監督を雇うべきです。自分でカメラ回すな。
ラストの追撮シーンはまたザック自身が「アーミー〜」と同じ機材で撮影監督やってるぽくて、途端に被写界深度が浅くなって無駄に手持ちになるのが・・・

・音楽
ジョス版ではダニー・エルフマンのやる気の無いスコアがだらだらと流れていたけど、ザック版ではジャンキーXLのばっきばきなスコアがゴリゴリ流れます。やっぱりカッコいいね。
ただ、ワンダーウーマンが活躍したらいちいちアマゾンぽい女性コーラス流すのはちょっとワンパターンすぎて途中からイラついてきます。

・ケレン味、アクション演出
「アーミー・オブ・ザ・デッド」ではほぼ消えていたザック最大の美点のケレン味が全編くどいくらいに炸裂!ファンは垂涎ものです。正直ほんとに中身とか無いペラペラな映画なのだけど、これを観れただけで充分楽しめた。
アクション演出も序盤のワンダーウーマンのテロ阻止シーンとかは流石に勿体付けすぎだけど、中盤の人質救出シーケンスなんかではジョス版を遥かに超える迫力とケレン味が楽しめる。クライマックスはケレン味増したけど正直虚無。

・悪役・ステッペンウルフの鎧
ジョス版ではクソダサかったステッペンウルフの鎧がめちゃカッコ良くなってます。顔もカッコよくなったよ。

・ビリー・クラダップ
エズラ・ミラーやウィレム・デフォーさえもしけた演技をしてザックの演技指導力の無さ(故に役者が皆好き勝手やって統率とれてなかったり駄目な役者が露呈したりする)が見える中で、唯一良い芝居をするのがザック版にしか登場しないフラッシュの父役のビリー・クラダップ。彼のエピローグでの演技はなんかグッと来る。「ウォッチメン」以来のタッグ、良い成果になりましたね。


○欠点
・長い、冗長
そもそもが前後編2部作の作品にしようとしていたとはいえ、明らかに物語の内容がそれほど尺を使うべき内容では無いので全体的に冗長。長い、とにかく長い。ケレン味炸裂しすぎて1カットがやたら長いし、無駄な切るべきカット&シーンも沢山ある。一気見すると疲労感が凄い。やっぱり内容が無いのがね・・・辛い・・

・ドラマの欠如、ストーリーの欠点が更に露呈している
なんで内容が無い、というかドラマが薄いのかというとザックにとってはこれは『神話』だからで、彼にとっての『神話』は葛藤とか苦悩とか必要無いのだ。その結果、悪い意味でするすると何のとっかかりも無く進んでしまう。するする進むけど実が伴わないのでストレスになる。だって、この話で『神話』とか言われても・・・・・
その為、ジョス版でジョスがやろうとした事(成功していたとは言えないが)もよく分かるようになる。細かい台詞・展開の追加や展開の削除でジョスが目指したのは、マンガ的なバカバカしい世界観にも関わらず終始無駄に硬っ苦しく正気のない『神話』のヒーロー達をMCU的な観客が親しみの持てる人間的な存在にまで引き寄せる事で、起伏があるようで無いストーリーや生気が無く魅力も無いキャラになんとか分かりやすい起伏を作って命を吹き込もうとしていたのだとよりはっきりと分かる。


・ユーモア・センスの無さ
ユーモアが致命的に、ことごとく滑りまくる。この辺もジョス版に負けている。


・演技の酷さ
先述のザックの演技指導力の無さのせいで、流石にちょっと演技アレじゃない?と思ってしまう瞬間が多い。特にサイボーグ・・・ジョスのパワハラを告発したのは勇気ある行動として賞賛されるべきだけど、役者としての彼は少なくともこの映画では良い所が無い。
エズラ君は人物造形がかなりしくじっていて、観ていて妙に苛立つキャラになってしまっている(この辺はジョス版では感じなかったので、ジョスがかなりテコ入れしたのだろう)。

・アメコミファンにしか分からないサービスが前面に出てくる
これ本当に困る。ごめん観客みんながコミック読んでる訳ではないんだよ?女性2人の感情的なシーンの後に急に『その一人はこのキャラでした!!みんな知ってるよね!?』とドヤ顔して出されてもマジで困惑する。ラストで急に出てきてドヤって自己紹介されても困る。ごめんね。(*追記:友人が知人のアメリカ人に聞いたら、「子供の頃からアニメでいっぱい観てたから知ってるよ!」との事でどうやらアメリカでは有名らしいです。ごめん)
やっぱりMCUはビギナーの映画観客の事を考えて作っていて凄いなと感心しました・・

・ダークサイドのキャラとしての魅力の無さ
MCUで言う所のサノスであるダークサイドに何のカリスマ性も魅力も怖さも強さの説得力も無い。

・最後の新撮シーンの『取ってつけた感』
マジで説明も無く長々とこういう事やられるとキツいんですよね。「バットマンvsスーパーマン」の時もこういう事やってたよね?
ジョーカーの演技が、、、、




結論としてはザックらしいケレン味が欲しい方にはお薦めです。俺としてはジョス版の方が好きかなと。まぁジョスはキャスト・スタッフを脅すような酷いパワハラ野郎だったらしいので台無しですが・・・
でもジョス版の冒頭のヒゲCG除去不自然シーンには明確な観客を映画に引き込もうとする意図があって、映画監督ならビジュアルよりああいう創意工夫をするべきだと思う。あとeverybody knowsが流れるジョス版のオープニング、絶対ザックの仕事だと思ったらジョスの仕事だったの・・?ああいうオープニング、絶対必要だった。

それでも「アーミー・オブ・ザ・デッド」よりは全然面白いので良かったです。
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