あお

14歳の栞のあおのレビュー・感想・評価

14歳の栞(2021年製作の映画)
4.0
出町座にて。

冒頭の草原と崖、馬の親子を映す象徴的なシーンから涙が溢れかけて、これが2時間続いたら涙腺が持たへんなとひやひや。その後はハンディカメラゆえの画面揺れによって別の冷や汗をかきつつ観た。

ある時期から教室への登校をしなくなった生徒が書いたプリントに「好きな本:青い鳥」と記された部分が映る。わたしもあの頃好きな本を聞かれたら、いつも『青い鳥』を答えていたことを思い出す。観にきてよかったと確信した瞬間のひとつだった。みんな、いつかの自分を見ている。

最近よく先生に「論文の結論はね、穏当でええんですよ。たった一つの論文で重要な大発見をしようっていうのはそもそも無理がある。その論文における問題設定や目的に対応した、みんなが『そうだよな』と納得するような結論が書ければそれは穏当な結論であっても論文としてちゃんと価値があるんですわ」と言われる。この映画を見ると、その意味する穏当さが何なのか少し理解できたように思う。

決して物語のように劇的ではない日常を懸命に生きること。懸命に撮り、あるいは論じようとすること。

撮ることの加害性、撮る者と撮られる者の力関係における非対称性。それを赦し合い、35人の生徒本人と保護者、教員、学校、教育委員会といった携わる全員が納得したうえでこの映画が完成し公開まで結びついたという前提に立つならば、それはかなり希望だなと思う。

その場所にたしかにその人がいたことを残そうとする誰かになること。そのことが持つ困難さ。そしてそれをも乗り越えるようなかけがえのなさを、竹林監督からのテーゼとして受け取った。

顔、喋り方、考え方、これまで出会ってきた誰かとの共通性。日常で思い出すわけではないけれど、あるタイミングにその人と話した日に座っていたベンチの木のささくれた触り心地を思い出すようなこと。

ある一つの主たるコミュニティが全てではもちろんなく、それぞれが自分の身体やこころになるだけフィットするような心地よい空間や居場所を見つけてきたこと。

ラスト、主題歌である「栞」1番Aメロのあまりの合いように胸がざわめいた。今までこの曲をこんなふうに聴いたことがなかった。見知った曲の異なる解釈可能性を提示してくれた作品。

実在の中学生を映している作品の性質上、DVD化や配信の予定はないと当初からの制作のアナウンスも。上映館は限られていますが、観られる機会があればぜひ一人でも多くに観てほしい一作です。
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