まよいマイマイ

Arc アークのまよいマイマイのレビュー・感想・評価

Arc アーク(2021年製作の映画)
4.8
『愚行録』も『蜜蜂と遠雷』も映像化は不可能といわれた作品を見事に映像化した石川慶監督の最新作
キャリアのなかで最も映像化が難しいであろう原作に挑戦している

石川監督の作品は共通して空間を描くのがとてもうまいなあとおもいます
『愚行録』では大学の広々とした教室内やプールの「空間」。
『蜜蜂と遠雷』ではコンサートホールや海辺の「空間」。
そこにない「空間」を描くのがとてもうまい。
そして、『アーク』は海辺から物語がはじまる。

またキャスティング、演出力が素晴らしい。『愚行録』でも書いたが演技派を起用することによって生じることもある「押し付けがましさ」がギリギリで「ない」。
寺嶋しのぶや小林薫、風吹ジュンといった演技派の役者さんを見事に配置している。
そしてなんといっても芳根京子の魅力!石川監督の短編『点』で印象的だった中村ゆりも非常に重要な役で出演している。細部にいたるまでキャスティング、演出が見事だ。
岡田将生の着実な存在感も見逃せない。

道徳くさい感じもありつつ、やはり石川監督は絶妙な感覚で「倫理観」や「道徳観」からズラしている。
この物語は多方面から観ることができる。それが今作の魅力だ。



以下、どうしても書きたいので多少のネタバレ含みますので観てない方は読まないでください



物語は3つのパートに分かれる。もっとおおまかにいうと大きく分けて2つ。
芳根京子演じるリナと寺嶋しのぶ演じるエマのエピソード
後半はリナと小林薫演じるリヒト、風吹ジュン演じるヨシミ、そしてもうひとり、あの子とのエピソード。

前半、寺嶋しのぶとのパートはいままでの石川作品にはない、どうも演劇くさいセリフ回しが気になった
それは芳根京子演じるリナの舞踊によりさらに強調されているように感じた
今までの石川作品にはない極めて「舞台」的なパート。
その「溜め」があってからの後半、小林薫と風吹ジュンの登場で、わたしは勝手に思ったことがある。
前半はあえて機械的な口調にしたのではないか。SFのテイストが強いパートであるということもある。
だからこそ後半パートで「人生を全うして生きる」ことを選んだあの夫婦の人間味あふれる言葉、セリフが活きてくる。

終盤。
海辺に集まる家族たち。
そして倍賞千恵子が空を仰ぎ物語は終わる。
号泣。
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