涙

獅子座の涙のレビュー・感想・評価

獅子座(1959年製作の映画)
4.3
#獅子座
エリックロメール監督の長編処女作。ロメールの作品は海辺のポリーヌを見ただけなので、この作品との差異に驚嘆した。
日付を章立てて、ピエールの堕落を悲惨に映す。日頃の行いが悪いと罰が下るという迷信が、この映画では悲痛な現実としてピエールをのさばる。日が経つにつれ、だんだん喪失する自己の威厳に憤慨しながらも、着々とホームレスに近づいていく。身形も無造作になり、不精髭が伸びる。バスや駅も使えず、照り付ける太陽に辟易しながら歩いて友人を訪ねるが、バカンスや出張へと出掛けている。まるで突き放されているようで絶望的。来る日も来る日も途方もなく歩き続ける中、生気溢れんばかりの若者とすれ違い、猥雑だ!と嫉妬するが、自ら招いた不条理に目を向けず、ただただ惨め。彼からしてみれば不条理だが、傍から見れば馬鹿な奴なのだ。宿も食料も無く、ゾンビの様に微睡むまで歩き続ける。皮靴は破れ、何度も直そうとするが治らない。彼は作曲家として音楽の教養があるのに、その素養を使おうとせず惰性で生きた結果の今なのだ。素材が良くても穴が開けば何度直そうが使えない。最終的に自分のあるべき存在を示して救われたが、彼はそれに気づかず繰り返していくのだろう。
未来のある恵まれた若者と明日は我が身のボロボロな中年男の対比が絶望的。人生讃美歌のような、ハリウッド映画に突きつける、中年男の危機は新しい波に相応しい。
涙