ブラックユーモアホフマン

偶然と想像のブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

偶然と想像(2021年製作の映画)
4.6
満席の劇場で爆笑が巻き起こった!!
こんな濱口映画が見たかったんだ!!

脚本の構成の妙、話し言葉としては不自然なくらい整っているけど聞いていて気持ちのいい台詞、何気ないようでいて実は周到に考え抜かれた撮影と編集。
ずっと貫かれている濱口竜介らしさが、今回は短編集という形式上、最もライトに楽しめる作品になっているとも思うが、

何よりも、これまでの作品の中で一番笑える!今までの作品にも笑えるシーンはあったけど、こんなに全編にわたって笑えて、しかも見終わった後にストレートに爽やかな、前向きな気持ちになれるのは初めてだ。
そしてなんかずっとこういう濱口映画を、僕は観たかったんじゃないかという気がしないでもない。
んーいや、こんな濱口映画があってもいいじゃないかと思えた。観た後しんどすぎてゲボ吐きそうになる濱口映画もまたそれはそれでもちろん良いのだが。

満席の劇場が笑いに包まれた。いやーいい映画館体験だったなー。ちなみに一番初めに笑いが起こったのは第一話の最後のシーンの最初のところで、これはとてもいい笑いだな!と思った。その状況だけで笑えるっていう。重くもなりそうな話なのに。

どの話も面白かったけど、特に第三話「もう一度」がすごく良かった。『PASSION』の二人の再共演。お二人ともやっぱりいいなあ。さすがに経験者なだけあって濱口演出にやっぱり一番ハマってる気がしたなぁ。

同じく『PASSION』組の渋川さんも当然良かったです。意外と芥川賞作家の大学教授役が合ってた。確かにこういう、変人っぽいけど魅力的な教授っているよなーって見えた。

ちなみに役者だと一番良いと思ったのは甲斐翔真さん。濱口さんの映画にはたびたびしょうもない男も登場するけど、中でも群を抜いて軽薄でしょうもない奴を物凄い説得力で演じてた。甲斐さんは『君が世界のはじまり』で見てたから、その時の役との差もあって演技の幅も分かってすごいと思った。

濱口さんの映画にずっとロメールっぽさは感じてたけど、今回は短編集というのもあってよりそれを感じた。
各話に必ず一回あったあのズームはホン・サンスを思い出し、特に第三話は『逃げた女』も想起した。

第二話も第三話も、出されたお茶がほとんど飲まれないことを無駄に気にしてしまった。

【一番好きなシーン】
・中島歩さんが追いかけようとして、
・渋川さんが扉を開けるところ
・宅配便が来るところ