claire

偶然と想像のclaireのレビュー・感想・評価

偶然と想像(2021年製作の映画)
5.0
第3話のある場面で、何故映画を愛してしまうのかという問いの答えのような瞬間が映されていて、どうしようもなく泣けてきた。そこでは、何が偶然なのかは判然としないだけではなく、それがまるでどうでもいいことのように描かれていた。そんなことよりも、現象として起こってしまったこと(=偶然)から、可能的に起こり得たことを演技していく過程にこそ美しさが宿ってしまうことを、その物語を見つめる者として意識的に考えざるをえない。自分が望むような予定調和的な運命によってではなく、その場の、その虚構的な関係を想像(創造)的に演じることによって、個はかつての世界へと開かれ、二者関係は絶えず新たな形へ生成変化していく。意味的な接続(=運命)が非意味的(=単なる偶然)であったとしても、演劇的に反復させればいい。偶然はある種の囚われであり、そこから想像へと開かれるこの物語を何よりも評価したい。二人は再び、対称的な位置関係で手を取り合う。両の手で繋がったまま、どちらかが語りだすと、身振りとして私=彼女の手が動く。その手の動きはそのまま相手へと直接的に伝達する。そこではもはや、どちらが能動的でどちらが受動的なのかはわからない。二つの身体の動きが衝突することなく混じり合うようなコミュニケーションの在り方はそれでもなお不完全ではあるが、その不満は最後のショットにおいて完璧な形で必然性として結実する。それは無意識的に動いた身体が偶然によって遮られてしまった、あの時の偶然の意識的な反復でもある。
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