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対峙の盆栽のレビュー・感想・評価

対峙(2021年製作の映画)
4.3
感情が入り乱れる111分間


 ずっと気になっていた作品。銃乱射事件で共に息子を失った被害者と加害者の家族が対話をする。回想シーンは一切なく終始家族同士の会話のみ、ただそれだけですが鑑賞中に芽生える感情の多さは計り知れないほど。観終わった後の疲労感は凄まじいものです。

「あの日、息子はなぜ殺されたのか」「あの日、息子は死を選んだのか」
"あなた方の子(被害者/加害者)はどんな子だったの?"
 お互いに疑問を持ったまま対話が始まるため、最初は非常に気まずい雰囲気が漂います。全力で建前で話そうとする彼らの姿は共感性を生み出す。「仕方ない、こう振る舞うしかないよね」と。ですが被害者家族の妻のとある一言によって、お互いに本音をぶつけ合う会話劇へと変貌。不謹慎な発言だというこもは分かっていても、息子に対する愛情が上回り、ずっと溜め込んでいた感情を"言葉"として伝える。お互い辛いことではあるのに決して避けることはできない。思いを伝えるには今日この日しかない。
 本作がなによりも恐ろしいのは被害者家族と加害者家族をほぼ中立な立場(被害者家族がメインパーソン寄り)で描いていること。そのため双方に感情移入してしまうし、責めることさえできない。絶対的"悪"がいないからこそ映画的均衡が崩れる瞬間。善悪の区別をつけれない、つけなくないからこそ本作は感情のバトンタッチの頻度が常軌を逸しています。

 彼らの会話から、観客にも伝わる銃規制問題を隠すことなく表面化することで本作のテーマ性の在り方が無駄なく反映されています。相手の目を直接見ながら本音で語り合うことが難しい今の時代。何がベストな解決策なのか永久に問われます。
  
2024.3.20 初鑑賞
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