ゆず

秘密の森の、その向こうのゆずのレビュー・感想・評価

秘密の森の、その向こう(2021年製作の映画)
3.8
映像が心地良すぎて、真ん中ごっそり寝てしまった。

森の中に作られた小屋の前に、二人の8歳の女の子が立っているといった光景が思い浮かんだ。ミステリアスでありながらインパクトがすごい強くて、女の子と、その子と同じ年齢の母親という設定にしたら面白いのではないかと、イメージが膨らんでいった。

8歳という年齢は、子ども時代のど真ん中というイメージ。その後は思春期に移行し、徐々に自立する年齢になっていく。子ども時代は一旦そこで終わるというような印象があり、これから変化していかなければならない運命を背負った年齢。その年頃の子というのは、観察力が非常に発達している。好奇心だけではなく、上手くやりきるために周りを観察して理解しなければいけないという緊迫感も受け止めることができる。そうした子どもならではの鋭い視線を映画的に描くことも、面白いのではないかと考えた。

私にとって森は、象徴的な空間というよりも、実践的な場所。自由を感じる一方、何か脅威を感じることもある。それから森は、木の葉が落ちてまた芽吹くという自然の再生や変化が起きている場所という意味では、とても詩的にも感じられる。童話などの舞台によく使われているという点では、皆に共通して馴染みがある場所なので、そういう意味でも物語の場所として魅力的。

50年分相当のパリ郊外のたくさんの学校のクラス写真を見て研究し、子どもたちの服装の共通点は何だろうかと探っていった。そうやって、1950年代に子ども時代を過ごした人も、2020年代の子どもも、自分と結びつけられるような世界観を作り上げた。

コロナ禍が始まった頃、老人ホームでは多数の死者が出て、家族にさよならも言えずに逝ったという状況があった。世界中で大勢がそうした体験に直面するという緊急事態を目の当たりにしたとき、今こそこの映画を作るべきだと思った。

「おおかみこどもの雨と雪」子供が解放されていくところ、家族に対する感謝などを丁寧に描いていて、強烈な印象が残った。

どちらに進むか迷ったとき、いつも子供たちが好きだと思うほうを選んだ。でも、それはもっとも過激で詩的な近道を選ぶということだから、簡単なことではない。

方向性を見失った時はいつも、自分自身にこう問いかけた。『宮崎駿監督ならどうする?』と。

構造的にも上映時間の短さからも、人間が睡眠中に見る夢を体感的に捉えた映画に思える

期間限定、モラトリアムな舞台設定の中、その中でだけは、外側の世界での社会的枠組み、役割からいっとき解放された主人公たちが、互いに対等な関係性を、ほんの一時であれ築いてゆく。(作風)
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