Omizu

バッハマン先生の教室のOmizuのレビュー・感想・評価

バッハマン先生の教室(2021年製作の映画)
3.8
【第71回ベルリン映画祭 審査員賞】
ドイツのドキュメンタリー作品。『マドンナ』などのマリア・シュペート監督が長年の知り合いであるバッハマン先生の教室を映した作品。

舞台となるシュタットアレンドルフは工業が栄える街で、実に70%が移民だという。また、シュタットアレンドルフは第二次世界大戦中、ヨーロッパ最大の武器生産拠点であり、労働者の大部分がミュンヘン郊外の強制収容所から強制的に連れてこられた労働者だったという街の歴史も描かれる。

バッハマン先生の教室にいるのは12~14歳の人種も信教も異なる生徒たち。バッハマン先生がどのように生徒に接しているのを映していく。

勉強はもちろん、みんなでバンドを組んで歌ったり、物語やアートを制作したりと自由な教室。

移民の子どもたちにはまずドイツ語を教えるところから。優秀な子は出来ない子を教え、積極的にコミュニケーションをとる。イヤな態度をとる子には怒るのではなく、なぜ怒っているのか、なぜ不機嫌なのかとその原因を突き止めようとクラス全員と会話を交わす。

怒りの原因、悲しみの原因を理解することで、自らも他の人も分かるようになる。すごく単純だけどなかなかできないことだ。

全員がバッハマン先生のような教師だったらいいが、そうはいかないのが現実。バッハマン先生は全部に顔を出す。音楽会やボクシングの試合にも。本人の時間もやる気もないといけない。教員が全員そのモチベーションと気力があるかというとそうではないだろう。

でもバッハマン先生の教室には愛がある。より深い相互理解がある。

何人かの生徒が「同性愛は気持ち悪い」という意見を言う。バッハマン先生は「なぜ気持ち悪いと思うのか教えて」と言う。彼らは「分からないけどそう思う」と言う。彼らは周りに影響されているんだろう。バッハマン先生は「分からないと言うことが分かっただけで収穫だ」と言う。彼らは小学生だ。最初から理解できるはずがない。そうやって考えさせることで成長していくだろう。

少し長いものの、バッハマン先生と生徒たちとの対話が非常に興味深い。勉学、哲学、音楽、歴史、宗教といったあらゆることを巧みに生徒たちに考えさせる素晴らしい先生だと思う。

それぞれの対話が面白く、気付けば引き込まれていた。とても優れたドキュメンタリー作品で、ベルリン映画祭審査員賞は納得。

追記
他の方のレビューを読んでいたが、確かに先生が「異性との結婚」ありきで話しているシーンは違和感があった。先生が生徒にする質問ではないし、アウティングの可能性だってある。そこは確かに問題だ。
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