ShinMakita

鳩の撃退法のShinMakitaのレビュー・感想・評価

鳩の撃退法(2021年製作の映画)
1.9
富山県、某市…
デリヘル〈女優倶楽部〉のドライバー津田伸一は、以前は文学賞も獲った小説家。数年前に筆を折り、この町に流れてうらぶれた生活に身を落としている。そんな彼の趣味は、深夜営業のコーヒーショップで読書をすることだ。ある冬の日、真夜中に本を読んでいた津田は、向かいの席にいる自分同様の「読書男」が気になりつい声をかけてしまった。男は秀吉という名でBARの店長。妻と娘の3人暮らしだが、娘は自分の本当の子ではないという。仕事が終わったあと帰宅するのがイヤで、ここで本を読んでいるらしい。秀吉と意気投合した津田は、読みかけの本をいつか秀吉に貸すと約束し別れるのだった。だが2人が再び会うことはなかった。翌日、秀吉の一家は神隠しに遭ったかのように消えてしまったからだ。1か月後、馴染みの古本屋の爺さんが亡くなり、謎のスーツケースを津田に遺した。開けてみると、中には3000万円の札束とバラの万札三枚が収まっていた。喜んだ津田は、この3003万円から1枚使って散髪しスッキリした気分になるが、のちにこの札が偽札と判明し町中で騒動になってしまった。偽札を使用したのが津田だと知った〈女優倶楽部〉の店長は、彼に忠告する。偽札を探しているのは警察だけじゃない。闇社会の超大物・倉田健二郎が偽札の使用者を調べているというのだ。町で起きる犯罪には必ず絡み、人間を秘密裏に消すことに長けているという倉田。もし神隠し事件にも絡んでるなら、倉田が秀吉一家を殺害したことになる。そんな奴に狙われてしまうなんて…とビクビクする津田だったが…

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というのが、高円寺のBARで働くバーテン・津田伸一が書いている小説のさわりだ。津田は、以前は文学賞も獲ったことがある小説家である。数年前の作品が元で訴訟問題に巻き込まれて新作が書けなくなっていた。そんな彼が新作を書いて小出しに編集者・鳥飼に原稿を渡す。鳥飼はさわりを読んで、これがフィクションではなく現実の出来事なのではと疑うが…



「鳩の撃退法」

以下、「そのネタバレは受け付けない」。

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「事実は小説よりも奇なり」な体験をした作家が、それを想像力を駆使して小説にしたよ、というストーリー。いわゆる〈信用ならざる語り部〉が語るストーリーなので、津田の回想は虚実入り混じっていて混乱しますが、その混乱から一つの結論を見出すことがカタルシスになっています。私が連想した類似作品は、やはり「ユージュアル・サスペクツ」と「ロング・グッドバイ」ですね。

原作未読のため映画のオチが原作どおりなのかは知る由も無いんですが、映画だけ見たら津田と秀吉の関係はマーロウとテリー・レノックスを意識しているとしか思えません。深夜の読書談義からくる二人の連帯感というか友情というか、そんな物の芽生えは、「長いお別れ」のテリーとの出会いの場面と同じじゃないかな。あくまで想像で事件が解決してしまう点も、チャンドラーの小説っぽいと思いました。


映画「鳩の撃退法」の売りは、プロットそのものよりも、小説と現実を往き来する複雑な物語を混乱なく交通整理して、フェアに手がかりを提示した脚本と編集の巧さだと思います。初見で楽しめたら、もう一回観直して細部を確認したくなる映画であるのは間違いなし。軽くオススメ。
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