デニロ

彼女が好きなものはのデニロのレビュー・感想・評価

彼女が好きなものは(2021年製作の映画)
4.0
山田杏奈を観に出かけたらとんでもない作品に出合ってしまった。

腐女子から奪い取ったBL漫画を読みながら、こんなに簡単に挿入るなんてファンタジーだよね、と囁き合うふたりの男子。やっぱりそうなんだ、と思う。『ブロークバック・マウンテン』を観た時、テントの中で男が男を無理強いするのだがいとも簡単に挿入ってしまうのです。わたしのA感覚ではありえんと訝しく思っていたが、やはりファンタジーだったのだと理解する。果たしてそれでいいんでしょうか。

芸術作品に触れているとLGBTに出会わないわけがなく、最近ではQなるものまで加わっている。自身の性認識や性的指向が定まっていない或いは意図的に定めない性の在り方をいうのだそうだ。わたしは、随分前から社会的少数者を特別な存在として言葉で区分けするなんてちんぷんかんぷんだと思っている。異性愛だけが当たり前、だなんてもはや芸術作品に触れているものは思わぬだろう。わたしはレインボーフラッグに大きく影響を受けた。

連れ合いがQって何よ、と聞くので、萩尾望都『11人いる!』のフロルじゃないの、性の選択をしていない。でも、この間観た「ザ・ドクター」という芝居で、天野はな演じる少女の/わたしは女であることを選択したんじゃない、わたしはそのままのわたしなの/という血叫びにわたしのこころは打ち砕だかれる。彼女は男子で生まれてきたのです。

秘密の共有で親密になった神尾楓珠と山田杏奈。でもそれは、別なる秘密の暴露で割れてなくなってしまうもの。三浦りょう太と前田旺志郎のあやしい女性観を加えつつ、作劇者は性別に関する規範と性差に思い悩む。地球上の男子全員がゲイだったらいいのにと思っていた山田杏奈の怒りは対象たる神尾楓珠に/別にいいじゃん。ホモ、好きなんでしょ? /と、混ぜっ返される。でも彼女はかんがえる。あらん限りのエンパシーを働かせた。神尾楓珠の作った壁について大事な話をする山田杏奈。このあたりの作劇の迫力は凄まじい。

序盤に色々と詰め込んでしまったので、終盤その取扱いに混乱が生じ落ち着かない。脚本と監督を兼ねると批判的に自分を顧みられなくなるのか。

恋人と妻 溺れていたらどちらを、、、今井翼の別れの言葉が泣かせます。
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