Garikuson

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のGarikusonのネタバレレビュー・内容・結末

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

鬼太郎の映画がえらく評判がいい。。。ということで会社休んで鑑賞。
俺の知ってる鬼太郎、エンディングテーマがすごく物悲しかった印象。
遊園地でバイトする妖怪に愛を頂戴〜🎵
ああ、ノスタルジック。。。

時は昭和31年。戦後の傷を引きずりながらも再起に向けて異常なほどの熱量を持って邁進していた日本が舞台。

太平洋戦争で従軍し、心にも体にも大きなキズを持つ血液銀行のサラリーマン、水木。
水木は日本の政財界を裏で牛耳るほどの大きな権力を持つ龍賀一族の会社、龍賀製薬の担当者であった。
ある日、龍賀製薬の地位を不動のものとした御大・龍賀時貞が死亡。水木は時貞翁を弔う名目で人里離れた山奥にある寒村、哭倉村を訪問する。
しかし水木の本心は時貞翁の弔いではない。本当の目的は次の跡目となるであろう龍賀製薬の社長である克典の懐に入り込むことと、龍賀製薬の特別な製法で作られた「M」という薬の調査であった。
この「M」は龍賀製薬の裏メニューと噂されており、投与されれば無限の活力のもとで何十時間でも働き続けるほどのバイタリティを発揮する奇跡の妙薬。戦時中も龍賀の薬を投与された通称「不死身の無敵部隊」がいたおかげでこの小さな島国がソ連や米国に対抗できたのだ、という伝説すらあるような幻の薬である。
野心家の水木はなんとしてでもこの2つの目的を達成し、どんな強者にも侵害されないような確固たる地位を勝ち取ろうと息巻いていたのである。

ついに発表される遺言状の内容。しかし、中身は驚くべきものであった。
跡目は婿養子の克典ではなく、精神的に不安定で引きこもりがちな奇人変人の長男・時麿にすべての跡目を譲るというものであった。
激昂した克典と分家衆により会はもみくちゃとなってしまう。
水木も克典のツメの甘さと自分の先走りが嫌になり、はなれの客間でしばし休息をとることに。

翌日、女中の絶叫で水木は目を覚ます。
なんと昨日跡目を継承した時麿が、神社で左目を貫かれた変死体で見つかったのである。土砂崩れにより町への道は絶たれ警察は来ない状況となってしまい、恐慌状態に陥る一向。
そこに村の衆が「奇妙なよそ者をひっ捕らえた」と報告にやってくる。
縄に捉えられ、ダラダラと階段を気だるげに登ってくる痩身の男。この男こそ、後に目玉の親父と言われる人物、通称「ゲゲ郎」であった。
あらぬ嫌疑をかけられて座敷牢に放り込まれるゲゲ郎。よそ者同士ということでゲゲ郎の目付役を任される水木。そうしている間にも次々と惨殺されていく龍賀一族。
二人は龍賀の忌まわしい因習を紐解いていくこととなるのであった。。。


こんなのがPG12でいいのか?
親同伴でも小学生にはちょっときついんじゃないか?
とにかくグロいし、話の内容がえげつない。情も容赦も神も仏もないようなストーリー展開の数々に頭を抱えてしまう。

ゲゲ郎と水木のバディ感は最高。

戦争PTSDを振り払おうと必死に野心剥き出しで突き進むイケメンの水木も良いが、特にゲゲ郎は巷のお姉様がたにすごい人気らしい。
おそ松さんが流行った時も思ったが、特別麗しい作画じゃなくてもキャラ付けさえ完璧なら人気は出るんだな。
嫁一筋で優しいジジイ言葉で話す長身細身の白髪優男とくりゃぁ盛りだくさんか。
最初こそ歪みあってた2人だが、墓場で2人酒とピースを喫むシーンは最高。直前で妻の思い出を語りながらほろほろと涙するゲゲ郎の温かい声の演技は見事。

あとはゲゲ郎、クソ強いのね。流石鬼太郎の父ちゃん。人間相手には圧倒的なフィジカルで無双し、妖怪相手にはリモコン下駄や髪を武器にする妖術で対抗する。鬼太郎は技名叫びながら戦うけど、ゲゲ郎は無言で技を繰り出す。練度が増して詠唱いらなくなってる感じがしてこれも良き。

忘れてはいけない、若かりし頃のネズミ男もいいね。クソみたいにエゲツないストーリーの中の一服の清涼剤。こいつが出てきた時の安心感よ。ホラーゲームのセーブポイント並みの癒し力。

先にも触れたが、ストーリーはただただ陰惨。横溝正史のようなドロッドロの土着ミステリに悪霊を添えて、的な代物。
序盤なんてまさしく犬神家の一族ですよ。スケキヨがゴムマスクなら時麿はバカ殿メイクにお歯黒ベッタリってなもんです。
Mって、わかりやすく効能がヒロポンじゃんね。その血液製剤は妖怪族の生き血を人間に無理やり輸血し、廃人になった人間からさらに血をとり濾したものなんだと。村ぐるみで人を攫い、Mの原料として地下で飼い殺しにするという、まさに鬼畜の所業ですわな。序盤に電車に同乗してた女の子もいつのまにやら捕まって廃人にされてたし。あぁ胸糞。。。
女衆の怪演も見事。
すっかり思想に染まり切った長女の乙米、因習が嫌で逃げ出したが連れ戻されてヤサぐれた次女の丙江、気弱で何も言えないのに次期嫡子の親であることから歪んだ優越感に浸り出す庚子。特に乙米と庚子の関係よ。。。庚子は村長の長田に嫁がされてるけど、どう見ても長田と乙米が両思いじゃんね。。。話の流れ上、トキちゃんもどうせジジイに孕まされた子なんだろうし、どんな夫婦生活してたんだろう。
何より沙代ちゃんですよ。気の迷いでもなんでも、ホントに水木に東京連れてってほしかったんだろうな。つーかこの村から出たかったんだろうな。精一杯ワンピースでおめかししたり、水木に気に入られようと振る舞う沙代ちゃん。後半の慟哭と断末魔は本当に胸に来る。種崎さん、ナイス演技。
なによりこの女衆、全員が当代の子を孕む為に慰み者になってるってのがホント胸糞です。実の娘や孫に手を出して、あげくお気に入り〜❤︎ってか。あーあー気持ち悪い。。。

そしてもう1人。ラストまで可哀想でならないのはトキちゃんこと時弥くん。溌剌として人懐っこい少年。村でも数少ないまともな男の子なのに、最後はジジイの毒牙にかかり、ジジイの魂に肉体を追われてしまう。哀れなトキちゃんは70年以上怨霊・狂骨となって穴ぐらの中で苦しみ抜き、やっと鬼太郎と邂逅して成仏してゆく。優しく語りかける目玉親父と泣きじゃくるトキちゃんの演出、周りでも鼻を啜る音がたくさん聞こえた。。。

ラストからエンドロール、そして本当のエンディングに至るまでの流れも見事。
あまりのショッキングな出来事の数々に白髪となった水木は記憶をなくしてしまう。ゲゲ郎は全ての狂骨の恨みを引き受け新たな依代としてその身を捧げることで、墓場鬼太郎に出てくる全身ドロドロ包帯男になってしまう。なんとか助け出した妻の岩子はかつての美しい姿からすっかり変わり果て、まさに妖怪のような顔になってしまっている。

記憶をなくした水木が再びゲゲ郎夫婦と邂逅するシーン。しかし水木はゲゲ郎のあまりに凄惨な姿に慄いて逃げ出してしまう。ゲゲ郎の悲しそうな顔よ。。。
エンドロール終了後、夫婦はついに力付き、水木はなんとか状態がマシな岩子だけでも、と埋葬を試みる。しかし岩子を埋めた土の中から産声と共に赤ん坊が這い出してくるのであった。。。
化け物の子。。。と咄嗟に赤ん坊を取り上げて石に打ち付けようとする水木。しかし脳裏に浮かぶ景色。桜舞い散る中、どこか懐かしい白髪の友の後ろ姿。水木は赤子に向き直り、しっかりと抱きしめる。草葉の陰から見つめる目玉親父。
タイトルどーん!

素晴らしかった。。。

上手く墓場鬼太郎とゲゲゲの鬼太郎とに折り合いをつけた作品だと思う。

ゲスト芸能人声優なんていなくても、タイアップ曲なんてなくても!
ストーリーとキャラのみで押し通す!

ストロングスタイルの作品でした。
文句なし、おすすめ。
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