映画の道化師KEN

ノーカントリーの映画の道化師KENのネタバレレビュー・内容・結末

ノーカントリー(2007年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

この世は不条理に満ちている…

監督は「トゥルー・グリット」のコーエン兄弟。主演は「メン・イン・ブラック」のトミー・リー・ジョーンズ、「ライブ・フレッシュ」のハビエル・バルデム、「インビジブル」のジョシュ・ブローリン。加えて「ディフェンドー 闇の仕事人」のウッディ・ハレルソン、「アグネスと幸せのパズル」のケリー・マクドナルド、「ジェシー・ジェームズの暗殺」のギャレット・ディラハント、「フランクおじさん」のスティーブン・ルートらが共演する!

狩りをしていたルウェリンは死体の山に囲まれた大量のヘロインと200万ドルの大金を発見する。危険なにおいを感じ取りながらも金を持ち去った彼は、謎の殺し屋シガーに追われることになる。事態を察知した保安官ベルは2人の行方を追い始めるが…

コーマック・マッカーシーの小説「血と暴力の国」を実写化したクライムスリラー!

この作品は普通の映画とは違いストーリーの裏にあるテーマを理解した上で観ないと全く意味不明な内容になってしまうため、上級者向けの作品となっている。先ず、この作品で忘れてはいけないことは不条理というテーマが根幹である点。本作の原題「ノーカントリーフォーオールドメン(老いたる者たちの国ではない)」はアイルランドの詩人ウィリアム・バトラー・イェイツの詩「ビザンチウムへの船出」の冒頭を引用したもので、神秘とロマンを謳ったポジティブな詩であるのだが、作中では一切このようなロマンは描かれず、不条理で悪意に満ちた暴力しかない。時代と共に変貌する世界を表現している点では同じではあるものの、不条理という意味(良識ある老人たちには住みづらくなってしまった国)の観点で捉えると全く正反対なものになる。その上でノーカントリーフォーオールドメン(老いたる者たちの国ではない)というタイトルは本作を一言で表現していると言える。

映画に登場する殺し屋アントン・シガーには独特の殺しのモラルがあり、一般の価値観とはかなり異なる。簡単に表現するなら「邪魔する奴は殺す」,「気に入らないやつも殺す」,「気まぐれのコイントスで相手の命運を決める」など不条理と理不尽の塊である。作中のシガーは悪意と暴力の象徴であり、抗う術がない天災のように思える。しかし、不条理な悪意と暴力のシガーも例外ではなく、最終的には別の不条理に飲み込まれてしまう。まさに、この不条理の世界観こそがコーエン兄弟が伝えたかった作品のメッセージであり、本作の醍醐味だ。時代と共に変貌する悪意と暴力はどんどん不条理になっていき、私たちにはどうすることも出来ない。これこそ、この作品が伝えたかったことであり、不条理で皮肉った作風の真意なのである。

更に、それだけでは無く、作品の映像技巧も素晴らしい。影と沈黙を最大限に活用し、観賞者の全神経を画面に集中させる。照明も編集も異様なまでに細密であり、尚且つ、唐突なカットは殺し屋シガーの怖さや気持ち悪さを引き立てる。この神技に近い演出はコーエン兄弟の天才的な手腕があってこそ、実現出来たのだろうと深く、感心させられる!