にいにい

ノーカントリーのにいにいのレビュー・感想・評価

ノーカントリー(2007年製作の映画)
4.5
2007年度アカデミー賞で作品賞を含む四部門を制した本作。麻薬取引の縺れからか荒野に捨てられた無残な死体と大金を見つけるルウェイン。その大金を追う殺人鬼シガーと一連の事件を追う老人保安官ベル。3人を中心に描かれるスリラー。監督はコーエン兄弟。

老人保安官ベルの語りから始まる本作。音楽も何もないオープニング。そして始まるシガーの唐突で理不尽、常人には理解不能な殺戮劇。そこから一転、荒野で見つかる銃撃戦の残骸。そして大金。もう冒頭の20分で一気にこの世界観に惹き込まれる。一時も目が離せなかった。

中盤までは偶然大金を発見し、命からがら追手を交わし逃げ出したルウェインと大金を追う殺人鬼シガーとの手に汗握る逃走劇。決してド派手なアクションがある訳ではないし、映画を通してBGMも何もない。荒野の風の音、床板を踏みしめる革靴の音、装弾の音、こういった自然の音が緊張感をより高める。

そしてこの男に触れない訳にはいかないだろう。見るからに普通でない目つきと髪型、そして見慣れぬ空気銃。自らの理に従って感情もなく人を殺していくシガー。こんなに恐怖を覚えたのも記憶にない。この恐怖は決してその風貌だけによるものじゃない。この恐怖という感情が何によって引き起こされるものか、それは終盤の老人保安官ベルの諦観にも繋がってくると思う。人間は何に最も恐怖を覚えるか、それは自らの常識や価値観の枠を超えた理解不能なものだと思う。本作のシガーは常人には理解することの出来ない理を持って殺戮を繰り返していた。そしてそれは唐突である。唐突で理不尽な暴力、この世界から消えることはないものだ。保安官ベルがシガーのことを"幽霊のようなもの"と称していた。自分はそれを聞いていて"魔が差す"という言葉を思い出していた。

保安官を引退することを決意したベル。その言葉は比喩的で解釈が難しいが何となくは分かった気がする。原題は『No Country For Old Men』邦題だと見えてこないものが見えた気がした。コーエン兄弟作品はあまり好きじゃなかったけど本作は物凄く好み。物凄く面白かった。
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