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西成ゴローの四億円のricoのレビュー・感想・評価

西成ゴローの四億円(2021年製作の映画)
4.5
日比谷シャンテで11月9日から18日までの10日間先行上映された「西成ゴローの4億円」「西成ゴローの4億円 死闘篇」を初日と中盤で鑑賞しました。来年の公開時には前編から先に上映されて、後編が後から上映されるようですが、同日に続けて観られたのは幸運だったと思います。

前編の「西成ゴローの4億円」はこれから起きることの布石のような、
大切な場面がたくさんあります。記憶がなく、過酷な状況に置かれたゴローが娘を救うために死闘を繰り返していく後編の「西成ゴローの4億円 死闘篇」に繋がっていくのですが、前編でゴローの哀しみや苦しみを知ってから、死闘篇を観ると人が持つ愛の強さを信じたくなります。

木下ほうかさんが、前編もおもろいけど、後編は8倍おもろいと舞台挨拶でおっしゃっていたんですが、8倍どころではありませんでした。西成ゴローの4億円は死闘篇を観なければ語れません。

上西監督と言えば「ひとくず」で、人間を描きたいと監督がおっしゃっていますが、この作品もすべての登場人物の哀しみや苦しみが深く描かれています。私のイメージで言うとアリの巣みたいな感じです。入り口は小さいけれど奥へ奥へ複雑に広がっていくので、観るたびに発見があったり、新たに感じることがあります。

全部は書ききれないので、たとえば特攻服を着たレディースの総長と副総長みたいな松子と梅子。あの姉妹がなんでああなったのか、知ったときは泣きました。どんな生き方にもそうなった理由がある。上西監督はどこかのタイミングでその部分をちゃんと描いていく。それは人に対するリスペクトで、悪人にも悲しくて苦しい過去があるよ、許せなくてもいいから知っていて欲しい。人間という生き物への愛が根底に流れているのだと思います。

予告でダサいニット帽を被って空き缶を入れた大きなビニール袋を持ってヨタヨタ西成を歩いていたゴローはどこから見ても弱っちいおじさんでした。でも「この男、不屈で無敵」というキャッチコピーの通り、実は恐ろしく強い。深い優しさを胸に抱き、過酷な環境の中で愛する家族のために命を賭す男でした。前編ではゴローがどうしてこうなったのか、はっきりとは描かれていませんが、死闘篇でひとつひとつめくれていきます。

「西成ゴローの4億円」「西成ゴローの4億円 死闘篇」笑える場面もたくさんあります。お勧めです。
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