アノ

煙突の見える場所のアノのレビュー・感想・評価

煙突の見える場所(1953年製作の映画)
3.9
屋内外問わずカメラがガンガン引くので逐一ショットに小さな驚きがあって良い。

これぞ昭和日本映画と言わんばかりの辛気臭さでかなりげんなりする話なのだが、うんざりするほど流れる赤子の夜泣き声が輪をかけて凄まじくキリキリする。
上原謙に「そんなに生きたいなら一人で生きればいいじゃないか」と突き放されたときの田中絹代の立ち方が心底恐ろしい。絶望を全身で見事に表現していて感服。

日本映画史上何百と撮られてきたであろう上原謙の情けない素振りの中でも「妻が入水しようとしているのに遠くからオロオロ見守るだけ」なんてのは頭一つ抜けている。感動しました。
河原に座り込んだ田中絹代と遠くから苛つきながら見守る上原謙の切り返しもイカれている。結局助けに入るのは芥川比呂志だし(その後スイッチが入って正義正義と連呼しだしてドラマを進めだすのも笑える)。

関千恵子が花井蘭子を励ましながら裸足でどこへともなく歩くシーンの朗らかさはこの作品にとっては異質なようで、その実人間の多面性を描写した卓越したシーンに思う。
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