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テーラー 人生の仕立て屋のsienaのレビュー・感想・評価

テーラー 人生の仕立て屋(2020年製作の映画)
4.6
ものすごく良かった。

一言で言えばお仕事ムービー(中年以上向け)なんだろうけど、映像も脚本も完璧すぎてもう…
友情、恋愛、家族関係、無力感、葛藤、挑戦、実現、挫折、出発…そういったいろいろな人生のスパイスが散りばめられた、夢のようなおとぎ話でした。
女性向けなのかなと思うけど、男性も結構たくさん観に来ててほぼ満席だった。

美しすぎて切なくて胸が締め付けられっぱなしだった…。
映像センスもカメラワークも音楽もすごく好きだったんだけど、いちばん良かったのは、セリフは最小限で、あくまでもカメラの映すもので状況描写と心理描写をするところ。行間を読むタイプの作品。

主人公ニコスがまた実直で控えめなんだけどものすごい努力家で、プライドやそれまでの常識や既成概念を捨てたり打ち砕かれたり、そういった葛藤を全部セリフではなく演技で見せてくれるのがまたすごすぎた。ほかの俳優陣もだけど。
見ていてほんと応援したくなっちゃうんだよね…

特に終盤での主人公の恋の相手役の女優さんの演技、言葉よりも遥かに雄弁に彼女の心の動きを物語る表情で、心の中で拍手喝采でした…

あとニコスの小さな友達である少女ヴィクトリア、彼女の存在がまた素晴らしい。ニコスと観客に笑顔、希望、勇気に励ましを運んできてくれるだけでなく、道を誤ればまるで神の裁きのように制裁をもたらす。子供らしい無邪気さと残酷さ。

初めて移動販売車を引きずって市場へ向かう途中の路地で、壁の落書きにLIGHT YOUR FUTUREってあったりと、ほんと細部まで計算し尽くされていて、無駄なカットが一枚たりともなかった。
オルガのネックレスも石の色が変わるの、アレキサンドライトなんだろうけど心の変化を表すためのセレクトなんだろうな…
もうほんと良すぎて心がしんどい。

以前予告編を見て気になっていたけど、いつか観ようってくらいで、このために映画館まで来るつもりはなかった。
コロナ禍真っ只中で旅行も行けないし異文化や馴染みの薄い国の気色観たい!って一心で観ただけなのに、めちゃくちゃ良くて戸惑ってしまうくらい良かった…
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