武者鬼

コーダ あいのうたの武者鬼のレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
5.0
設定から何から全てが素晴らしく相手を思いやることの辛さを見事に表現している

あまり他作品と比較するのは良くないとは思うのですがディア・エヴァン・ハンセンや竜とそばかすの姫などの作品がより良くなるためにはこうすべきだったのでは?と感じてたものをすべて昇華させた作品がこの作品だと思います

主人公は自分以外がろうあ者(音声言語を身につける前に失聴してしまった人。今作では生まれつき)の4人家族のなかで幼い頃から家族と外の人を通訳する役目のもと育っていきます。
自分以外が耳が聴こえないため自分以外の家族が嫌なことや好きなことがなかなか共有できません、しかしそんななかでも頼りにされている立場や愛してくれることを感じているため居心地が悪いとは思っていません。しかしどこかで疎外感を感じていたり思春期特有のなんでわかってくれないの状態にいます
逆に家族、特に兄はそんな妹の自分たちに付き合って自由にない妹を思いやる気持ちと自分たちろうあ者のみでも生きていけることをアピールしたいのですが世界はそんなに甘くありません

学校では家族をバカにされ、家族に嫌気が差しながらもそんなことをいうクラスメイトと仲良くしたいとも思えず学校でも家でもどこか自分の居場所を見つけることがなかなかできません
そんななかで自分の歌声を評価してもらい…
というあらすじなのですが本当に良くできた設定だと思います

みなさんは子供の頃に似たような経験はなかったでしょうか?
親を馬鹿にされたり、親でなくとも兄弟や友人を馬鹿にされてムカつきながらもどこかその言分、気持ちも分かってしまうというような経験です
そう、本心ではそういった負の感情も思っているのです
だけどそれ以上に良い面や義理などもあり口には出せないそういうもやもやを抱えてうまく皆さんは生きてきたのではないでしょうか?

他にも親に「わがままなど言わずに今日くらい付き合ってくれても良いだろう!」と怒られるシーンがあります
これは私はピンポイントで似たようなことを言われたことがあるので本当に主人公の気持ちがひどく理解できました
子供の目線から見たら逆なんですよ
いつも親が大変なのは知ってるからいつも付き合ってあげているのにどうして今日くらいわがままを聞いてくれないんだという気持ちです
これは双方とも正しいのです
親だっていつも子供に付き合っている
だけど子供だって子供なりに親を思って親に付き合っている
ただそれだけなのにタイミングが悪い日というのはあるものなのです
今日だけは付き合ってほしい、今日だけは自分の時間がほしいというだけなのです

語りたいことはたくさんあるのですがネタバレにも繋がるのでいったんここまでにします
といったようにとてもリアルな描写がところどころにあります
しかしそれで破滅するわけではありません
ここで勇気を出せば打開できるというのを小さいながらもところどころにそういったシーンがありそれをがんばってこなしていきます
素直に謝るとか手を差し伸べてくれていたらプライドはあるだろうけどいつかはちゃんと掴むとか、自分の意見を押し殺すだけでは伝わらないとかです

本当に様々なシーンで相手を思ってこそ傷ついてるシーンがたくさんあります
それは社会で生活する以上当たり前とも言えます
しかし傷つきすぎると人間やはり脆いもので傷つくくらいなら関わらない、手を差し伸べない、意見を言わないなどむしろ悪手を取りがちになってしまいます
しかし相手を思いやれない人は相手から思いやれるわけがなくずぶずぶと負の循環に陥ってしまいます
思いやり傷つき報われないかもしない、だけど自分から始めないといけないのです
待っていても好転するわけがない
傷つき報われないことはいくらでもあると思います
だけどその時は家族や親友などに話してみましょう
理解はされないかもしれませんが少なくとも味方にはなってくれるはずですよ
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