さすらいのエマノン

コーダ あいのうたのさすらいのエマノンのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
4.6
良いものが観れた。

ミニシアターを訪れる度に此の作品のフライヤーや予告編が目に止まり、評判も良さげなので観るつもりだったのだが、機を逃し、サブスクでの鑑賞となった。

自分は音符は読めない。が然し、生ギターを趣味で弾くので、CODAの意味は知っていた。アウトロ(終章)のことだ。けれど、この作品でCODAは、ろう者の子供と云う意味なのだそうだ。英語、奥が深い。

今作は、2014年のフランス映画『エール!』のリメイクとのこと。こちらは未鑑賞。見比べて見たいと思う。

冒頭、くすんだ空と太陽を鈍く反射してうねる海面が映し出される。そして、主人公ルビー達の乗った漁船の映像に切り替わる。
音楽プレイヤーから流れる歌に合わせて歌いながら、地引網を引くルビーとその家族。彼女の“やれた”トレーナーの風合い。

この冒頭のシークエンスだけで、此れは良いものだろうと確信が出来た。創り手達のセンスオブワンダーが感じ取れるからである。

そして、漁師町で暮らすルビーや ろう者である両親、兄の生活が坦々と描写される。これがとても良い。
ブルーワーカーである彼らの出で立ち。町並み。くすんだ色彩設計が徹底されており、だからといって暗さや貧乏臭さは無くてファッショナブル! ホントに何着てもアメリカ人は似合うなぁと思った。
ルビーの親友のヤリ●ンビ●チの女の子なんか、し●むらで売ってるような迷彩柄に胸元にショッキングピンクのロゴが入った(平成の中学生かよ!)みたいなシャツや、どーしようもないMA-1を羽織ってたりするのだが、それなりにキマっている。裏山。

田舎の漁港なんて酒を飲むか、シンプルな博打以外の娯楽なんて無い。ましてや、労働者階級の人間にとっての楽しみはセックスくらいなものだろう。此れは世の東西を問わない。そう云う事情もキチンと描写されており、リアリティを感じた。

主人公のルビーの母親役は『愛は静けさの中に』のマーリー・マトリン。お父さんは知らない俳優さんだけど、『ラピュタ』の洞窟に住んてるオジイみたいな感じで良い味を醸し出している。お兄さん役の人も然り。マーリー以外の皆んなも本当のろう者なのだろうか? 手話でのやり取りがリアルだ。

ろうの家族の中で唯一、ろう者では無いルビーは歌が大好きでサブスクだけでは飽き足らず、古いLPレコードをディグって聴いている。そして、歌うのが大好きで歌がとても巧い。
そんな彼女が、音楽の先生と出会い、物語は転がっていく。
この先生。V先生がとても良い!ラティーノでファッショナブル。まるで令和に蘇ったハンサムなスティーブ・ブシェミみたいな感じ。かっけー!

この先生の指導の元、ルビーはバークリー音楽大学を目指すのであるが、漁協との軋轢により独立してお魚を売りたい家族の通訳の役目も果たさねばならず、ダブルバインドの状態に陥る。
ろうである家族は、彼女の歌の才能など知る由もなく、最初は反対の立場を取る。

が然し、彼女の出場するコンサートを観た時に、他の観客のリアクションを感じ取り、進学を後押しするようになる。

このようにして、物語は紡がれていく。

音楽を扱った映画なので、BGMも一々、グルービーで素晴らしい。サントラを取り寄せるつもりだ。そして、ルビーの歌声も素晴らしく、演者のエミリア・ジョーンズの将来が楽しみである。

惜しむらくは、音楽映画に期待する、徐々に盛り上がって行き、クライマックスで圧倒的なパフォーマンスでノックアウトさせてくれる展開では無かったと云う点。此れは元ネタのフランス映画と比較して見たいところだ。

つらつらと書き連ねた。傑作ではないのだが、本当に生活感が感じ取られる描写が巧みで良いものではあると思った。

オススメ!