フェアにアンフェア

コーダ あいのうたのフェアにアンフェアのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
3.4
他人に押し付けられたものではなく、誠実に考えて考え抜いたことが伝わる話。

飲み会での兄貴や演奏会の家族の仕草にどれだけ長く生きても、埋めようがないリアルな差異を感じた。本当に不安で心もとなくなる。でもそれは彼らの日常だから僕の感じた心もとなさとはまた違うものなのだろうとも思う。

大筋は田舎町の若者が才能を元手にチャンスを掴もうとするという王道。恋人との出会いや良き師との出会いと、悪くはないがまぁ見たことあるやつ。ただ15ドルのワインやカレイを詰めた発泡スチロール、先生のストールという細部にこそこの作品の肝がある。細かな生活感を積み上げることで、キャラクターの過酷さなり挫折なり楽しみが匂い立ち、家族の絆がかけがえのない孤島の砦になる。異常に感じる陽気な態度はそれを補強しているにしても客寄せのパンダに過ぎない。

さりとて彼女が恵まれた才能の持ち主でなく、彼女の思いがまぁちょっとやってみたい程度の場合はどうするのか。実際ビジネスも面白そうだ。誰しもが兄貴のように家族を守ること使命であると感じるとは限らない。つまりこれは問題提起ではなくてただ知らしめることを目的とした作品であって、考え抜いた監督がそう見抜いたように私は何も知らなかったしまだ何も知らない。家族を砦に置いて一歩踏み出すにはその家族の努力の寛容のみ、それで良いのかどこまで許容するべきか。