紅蓮亭血飛沫

劇場版 呪術廻戦 0の紅蓮亭血飛沫のネタバレレビュー・内容・結末

劇場版 呪術廻戦 0(2021年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

五条悟「愛ほど歪んだ呪いはないよ」

うるせ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
知らね~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!








タイトルにある通り、時系列上のエピソード0のような立ち位置にある本作。
私はTVアニメを最初から追ってる身なのですが、劇中で最低限の説明はされますし、後はフィーリングで楽しめる塩梅に収まっているため、入門編として堅実な出来栄えに仕上がっているのは嬉しい側面でした。
気になっている作品だからといっても、いざTVアニメ1・2クールを見るとなるとどうも重い腰が上がらない、といった人も見られるため、本作のように劇場版一本でそのコンテンツの雰囲気、クセ、強みを理解出来るといった環境は大切だよなぁと。

TVアニメ1期では物語上関与・登場していない本作の主人公・乙骨憂太。
大切な人を失ってしまった過去から卑屈な性格に磨きがかかってしまうも、「自分のせいで誰かが傷付くのは嫌だ」「迷惑をかけてしまった人の分まで自分が頑張りたい」「自分を肯定するためにも強い人になりたい」
と覚悟を決め、呪術師への道を歩む決意をする。
既に大切なものを失っていて、マイナスからプラスへと近づこうとするバックボーンがあるというのは、彼を主人公たらしめる所以として大きいなと。
近年のメガヒット漫画でいうならば鬼滅の刃、東京リベンジャーズ辺りに近いスタートラインですよね。
“大切なものを失い、取り戻そうとする”という目的があるだけで視聴者はその境遇に同情し、感情移入しやすい道筋が出来る。
また、長い間自分を責め続けた過去からも、第三者が抱える痛み・弱さへの察知・理解能力の高さに長けている、というのも彼の大きな魅力でした。
人の痛み・弱さを下手に刺激せず、優しく寄り添って肯定する…という姿勢が成熟しているのも、主人公の器として申し分なかったです。

呪いを軸とする世界観の作品なので“呪霊”と呼ばれる敵と戦うわけですが、本作でも特にインパクトの強い呪霊はキービジュアル、予告にもある通り、劇中での看板的存在、“里香”ですね。
不幸な死によって特級呪霊と化してしまった彼女が見るからに凶暴な怨霊となってからというもの、彼女が顕現する度に圧倒的な破壊衝動を撒き散らしていく、その暴れっぷりと周囲の損害は正に背徳的!
花澤香菜さんの憎しみと怒りが入り混じった大迫力な声・演技もさる事ながら、真希へと「お前ばっかり!!」と嫉妬を露わにしたり、愛してやまない乙骨から少しでも嫌われた気配を察すると瞬く間に狼狽えて「嫌いにならないで…」と泣き出しそうな声色になったり…と終始メンヘラムーヴ全開な為に、不思議な愛着が湧いてしまうキャラクターでした。
そんな変幻自在な里香ちゃんですが、特にクライマックスの「大好きだよぉ!!」からの開眼シーンは鳥肌もの!
開眼というビジュアルの変化は勿論、特級呪霊という高純度な呪いだからこその恐怖を引き立てる強調演出に、花澤さんの愛と呪いが入り混じった声が合わさってただただ圧倒されました…。
ヤンデレの里香ちゃんに死ぬほど愛されて眠れないCD案件…。

本作に至っては将来を誓い合った恋仲を取り戻そうとする、言わば“ラブストーリー”なので、「本コンテンツを全く知らない」という人にも手が伸びやすく、取っつき易い。
しかも本作、公開日が12/24・クリスマスで、劇中のクライマックスとなる死闘も同日となっているのもマーケティングとして見事だなと感心させられました。
我々が生きる現実でも本作が描く戦いでも、クリスマスという1年に1回のロマンチックな日に大切な人を取り戻そうとする、添い遂げようとするラブストーリー…として売り出しているわけですから、所謂デートムービーとしての側面も本作は持ち合わせているわけです。
本コンテンツが既に高い人気を獲得している事だけに留まらず、売れるべくして売れる大衆向けのマーケティングをも徹底していた事、それが本作の爆発的ヒットを裏付けたのだろうなと感服致しました。
全世界興行収入265億円突破、というのも頷けますね…。

私はTVアニメしか触れてこなかった身なのですが、友人曰く「劇場版ならではのオリジナル・追加要素がちらほらあって、原作履修済みの自分でも楽しい発見があった」との事で、本作制作に至ってのスタッフ陣の頑張りが見られるのも本作の魅力ですね。
特に印象深かったのが、京都校が百鬼夜行時に戦っていたシーンは本作オリジナル要素というもの。
詳しくは聞いていないのですが、この他にも色々な要素を散りばめていたという事で、“折角の劇場版という大舞台だからこそ、出来る限りの事をやってファンに喜んでもらいたい”とする制作陣の努力が伝わってきました。
こういったファンサービスは今の時代、本当にバカにならないぐらいの話題性と信頼が付与されますから、本作の徹底ぶりは魅力的ですね。

本作でも特に有名な名台詞、「失礼だな。純愛だよ」は正に本作の本質を付いているような爽快感!
“呪術廻戦”という作品自体が、取り纏う要素が“呪い”といった悪意・ヘイトに満ちた負の要素を軸としているからこそ、「そんな禍々しい呪いとかいうものよりも愛の方が強いに決まってんだろ!!」と強烈なエネルギーを真正面からぶつけてみせたクライマックス、痺れました!
敵対する男・夏油傑が何故こんな行動に出ているのか、どんなに崇高な思想を持ってるのか全く知らないし分からないけど、自分の大切な人達を傷付けたお前だけは許さないし、僕が僕である為にお前を倒す…という乙骨の結論も良かったですね。
小難しい話は分からないけど大勢の人間を犠牲にしてるお前は許せない、という単純なれど明快な心理がティーンエイジャーならではの爆発力、魅力、真理に溢れていました。
普通の作品ならばその一点で完結しているところなのですが、本作・乙骨憂太はその上でもう一つの信念を掲げている…という一工夫が嬉しい、
序盤から指針としていた“(誰かを呪うのではなく助ける事で)自分で自分を肯定できる人間に、誰かに必要とされる人間になりたい”とする原動力がある、言わば“自分主体の我が儘な願望”があるのが乙骨憂太を単純明快な正義の味方、聖人君子ではないという事を裏付けるスパイスとして効いてるんですよね。

俗世のああだこうだや経験の乏しさ故に、ひた向きに愛を信じる乙骨(純潔で無垢なティーンエイジャー)。
忌々しい過去や現代社会の事象に呆れ果て、己の信ずる大義を貫く夏油(年齢を重ねる毎に目の当たりにしてしまった世界の醜さに感化されたアラサー)。
乙骨の「純愛だよ」に対し「ならば私は大義だ!!」と夏油が反論するクライマックス、それぞれの背景からなる信念のぶつかり合いとして描かれているのは勿論、まるで“希望を抱く若者”と“希望を失い廃れた大人”がぶつかっているような感触もあり、ロマンチックな場面に仕上がっていました。
そこに加えてみんな大好き五条悟と夏油傑の胸を打つ別れと、「僕の親友だよ。たった一人のね」が加わるわけですから、否が応でも感情が揺さぶられてしまいます。
私は原作を全く読んでいない事もあり、「TVアニメ1期の夏油は何だったのか?」「親友にしてバディともいえる五条と夏油が、何故袂を分かつ事となったのか?」等々の真相を未だに知りませんので、現時点で毎週放送されているTVアニメ2期が一層楽しみになりました!

敢えて欲を言わせてもらえれば、尺の都合もあったでしょうが乙骨が呪術高専に入学してからの時間があっという間に進行してしまう為に、乙骨が「日々熱心に特訓に励んでいたから」と最低限の台詞フォローがあったとはいえ、乙骨の身体能力・戦闘力が急激に上昇しているギャップからの、縦横無尽に動き回る激しい戦闘シーンの違和感が強かったのは少々引っかかるかもしれません。
乙骨自身が菅原道真の遠い子孫に当たるため、という補足・真相があった事からもあれほどの伸びしろ、ポテンシャルがあるのも頷けるよなと自己解決出来なくはないのですが…。
季節が移り変わっていくのを象徴するように、登場人物の服装が変わっていたりといった工夫もされていたのですが、特訓シーンはもう少しあってもよかったんじゃないかなと。

少し苦言を呈しましたが、全体的にとても楽しく鑑賞出来ました!
劇場版だけあって高品質な戦闘シーンをたくさん鑑賞出来るという醍醐味がありますし、登場人物一人一人の戦闘スタイルも武器も能力も違うわけですから、登場人物が多い本作ならではの多種多様な戦闘シーンが見れる、お祭り騒ぎを楽しめるというのも非常に魅力的でした。
確固たる信念と、その信念を無碍にする者は誰だろうと許さないとする普段の温厚な性格とのギャップが活きる主人公・乙骨憂太のインパクトも絶妙で、声優・緒方恵美さんの演技がこれまたいいアクセント。
闇を抱えながらもその胸に宿る激情と共に運命に立ち向かう男の勇姿、惚れ惚れさせられました!
(たまにまんまシンジ君だなって台詞が出て来るのも笑いを誘いました)
元々原作が短期連載作品というのもあってか、メインの乙骨vs夏油がひと段落したらそれ以外の戦闘がぶつ切りとなっている等の消化不良が幾つか見受けられるところはありますが、大筋はしっかり纏め切っており切なくも清々しい、光明を見出した乙骨憂太の成長物語としては文句なく鑑賞出来ました。
本作で残された謎や乙骨の今後等々、原作を全く知らない私なりに今後のTVアニメ2期を楽しく鑑賞出来る要素がたくさん放り込まれ、まんまと術中に嵌ってしまっている感覚です。
快進撃を飛ばしているのにも頷ける世界観、完成度を誇っている呪術廻戦の動向に、今後も期待して追い続けたいと思います!

ちなみに私が好きなキャラクターは禪院姉妹です。
いいですよね、お互いに憧憬とコンプレックスを抱いてる関係。