ジュン一

コットンテールのジュン一のレビュー・感想・評価

コットンテール(2022年製作の映画)
4.0
【父と息子のもどかしい関係】

若年性認知症の妻『明子(木村多江)』を亡くした『兼三郎(リリー・フランキー)』は
その法要の席で菩提寺の住職から『明子』の遺言を渡される。

そこには、幼い頃に両親とひと夏を過ごした
イギリスの湖水地方の湖に自身の遺骨を撒いて欲しいと書かれていた。

故人の願いを叶えるべく
『兼三郎』は息子の『慧(錦戸亮)』とその妻の『さつき(高梨臨)』
孫の『エミ』と共にイギリスに旅立つ。


ここからが{ロードムービー}のお約束、
幾つかの試練が主人公を待ち受ける。

仕事の忙しさにかまけ、
父親と息子の関係はそもそも良好なものではなかった。

それに追い打ちを掛けるように
『明子』の介護の仕方でも対立。

病魔に侵された妻の姿を子供に見せまいとする『兼三郎』。
もっと自分を頼って欲しいと思う『慧』。
抱え込みの問題がここでも起き、二人は更に疎遠に。

自分くらいの年齢になれば
身につまされるエピソードの連続に
観ていても気分は暗くなるばかり。


旅中でも親子の関係はぎくしゃくし、
『兼三郎』は独り湖を目指すが
案の定、道に迷ってしまう。

我々が経験するような目的地にたどり着くことができない悪夢は、
しかし物語りでは、彼を助ける父娘が現れ、
その家で過ごすうちに
主人公の頑な心は次第に解される。

もっとも彼は更に大きな秘密を抱えており
それを吐露することが親子の寛解に繋がりはするのだが。


過去と現在を往復しながら、
ストーリーは静かに綴られる。

作家を目指すも挫折し、
望まぬ英語教師で糊口をしのぐ『兼三郎』の複雑な心境と共に
彼を信じ続けた妻の遺志に何としても報いたいとの思い。

その一方で、目的の為なら小さい盗みを平然と犯す
ややエキセントリックな性格付けは
人間の二面性を見せ付ける。

時として現れる他者への尊大な態度と併せ、
果たして彼にシンパシーを感じて良いものやら
良くないものやら、と。


散骨をする場所の特定に使われる一枚の写真には
幼い『明子』とその両親が仲良さそうに寄り添っている。

とは言えそれは表層的であり、
仕事で多忙な父親は、加えて厳しい人間だったことが『明子』の口を通じて語られる。
それだけ、その夏の思い出が素晴らしかった証左なのだろう。


父親は『光石研』、母親は『真矢ミキ』なのは
エンドロールで確認できること。

誰とも判然としない茫とした一葉の為に
随分と贅沢なキャスティングをするものと感心してしまう。
ジュン一

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