ジュン一

碁盤斬りのジュン一のレビュー・感想・評価

碁盤斬り(2024年製作の映画)
4.0
【その碁風は、相手の心根すら良化する】

元ネタは「落語」の{人情噺}
〔柳田格之進〕。

この{人情噺}なのがミソで
脚本の『加藤正人』は原作に更に幾つかの人情を盛り込むことで
心が震える物語りに造り込んでいる。

もっとも、こうした噺が成立し、
廃れず演じ続けられて来たのは
世間での人情が無くなっていることの裏返し。

往時でさえそうであったのだろうが、
今時では猶更と言ったところか。


浪人の『柳田格之進(草彅剛)』が
碁が縁で豪商の『萬屋源兵衛(國村隼)』と出会う。

二人は意気投合し碁を打ち合う仲になり、
『格之進』の碁風に感化され『源兵衛』の人となりが
やがて変わって行く。

以前は「けちべえ」とあだ名されたのが
次第に思いやりのある商いへと。

しかし、ある日、
『格之進』が『源兵衛』宅から辞去したあと、
五十両もの大金が無くなっていることが判明、
使用人たちは『格之進』を疑い・・・・、との流れ。


『格之進』は娘の『お絹(清原果耶)』を
吉原に売り五十両を工面。

「萬屋」の者に渡す際に、
もし五十両が見つかったら主人の首をいただくと伝える。

以上が原作のあらまし。


映画ではここに『格之進』が浪人となった経緯を膨らませ付け加えた。

藩内での碁敵『柴田兵庫(斎藤工)』の企みにより、
地位はおろか妻までを失ってしまった過去。

しかし、『兵庫』の悪事は露見し
『格之進』は帰参を許されるのだが、
それを善しとせず、敵討ちの旅に。


娘の身請けの期限は「おおつごもり」とされ
仇敵を追いながらの日々が刻々と迫る。

ここで日本の風景や昔ながらの行事を取り込んだ
語り口が素晴らしい。

時計やカレンダーの替わりに、
画面が迫りくるリミットを鮮やかに告げる。

そして二人が対峙する場の庭に
椿が植えられていることの寓意。

細部にまで神経が行き届いている。


吉原の女郎屋の主人『お庚』を演じた『小泉今日子』がまた好い。

中年の艶っぽさを出しながら、
時として商売の上では非情に。

しかし、父娘の思いに感じ入り、意気な計らいを見せる気風の良さ。

またある時は任侠の人の善意にも助けられ
主人公は信念に突き進む。

それもこれも、『格之進』の誠実で清廉な性格と
碁風が周囲を感化したことの帰結。


本懐を遂げ、一件が落着したあとのケリの付け方は
物語りのタイトルが示す通り。

ここでも複数の人情が提示されはするのだが、
実際に落語で演じられるのを聞けば
笑いそして涙するエンディングとなるのだろう。

もっとも本作では、
『格之進』の人柄を膨らませるエピローグを付け加え、
より余韻の残る一本に仕立て上げている。
ジュン一

ジュン一