クリ乃丞

Blue Island 憂鬱之島のクリ乃丞のレビュー・感想・評価

Blue Island 憂鬱之島(2022年製作の映画)
5.0
テレビでの紹介を偶然見て、映画の断片とエピソードが心に残り、久方ぶりの映画、映画館にとまどいつつもやってきた一般市民が、出演者・制作者それぞれの魂のほとばしる印象的な多くのシーンに刮目してしまった映画。それぞれのシーンは静謐だが、自由と民主化を求めて生きる場所を香港に見出した市民たちの歴史的つらなりでその国がつくられ、国と自分との関係を問い、自らの信念のもとに勇気をもって動き出し、犯罪者として裁かれても自由と民主化を実現するための行動をやめない無辜の市民が現代の香港社会を作っているというメッセージで貫かれているように感じる。

憂鬱で社会的で、カラフルな映画とはちょっと言えない。そして現実に罪に問われている市民の姿は衝撃的で、圧巻の裁判映像に、画面を通して私自身と見つめ合うという経験に息をのむ。若者が意見を表明するという教育を受け、香港人としての自由を求め、民主化という魂に恥じない行動をしながらも、圧倒的な権力に意見すると、法という名を借りた暴力的な罪をかぶるという現実に胸がつぶれそうになった。そして最後の音楽が心に染み入り、アノニマス(無名)というエンドロールのもたらす静かな衝撃に、魂を抜かれたような気分になる。その結果、この私という一般市民は魂のバトンを渡された気持ちになった。だからこのバトンを誰かに渡したい、無辜の市民達の勇気に拍手とエールを送りたいという思いから、この映画の感想をつたなくても伝えたいと考えるようになった。作中の人々の勇気に見合う行動は決してできないが、ささやかながらも何かアクションを起こしたいと今、思って、このレビューを書いている。

ちなみに、文化大革命・天安門事件・雨傘革命(時代革命)という3つの時代を通して、それぞれの当事者によるドキュメンタリーと現代の活動家らによる再現ドラマ、当事者と現代の若者との対話が複雑に絡み合う構成で、香港の事情に対する歴史的理解が追いついていなかったので、もっと客観的な解説がネットなどでほしい!、後で勉強しようと、反省する映画でもある。その中で、かつての活動家達がその壮絶な体験からにじみ出た、心に刺さる、誇りある言葉に、自分の人生における勇気の小ささを実感する。英国からの香港返還時に、海外に出た数多くの香港人がいたことが思い起こされ、映画中、自由を求めて香港に泳ぎ渡った老人のたくましさが重なって見えた。自分はどっちかというと、途中で力尽きた人々の方であると思う。
自由と民主化を渇望する思いを原動力に、今まさに戦っている現代の無名の市民たちの、不安と勇気が交錯する言論・行動に共感し、日本として、市民として、日々を生きる中で同じ勇気をもてるかを自問自答してしまう、人生で何を求め、何に挑戦する勇気をもてるか、共感して自分自身は何をするのかを改めて問われる映画である。
クリ乃丞

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