金宮さん

そして、バトンは渡されたの金宮さんのネタバレレビュー・内容・結末

そして、バトンは渡された(2021年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

登場人物への感情移入のできなさや、ちょこちょこ挟まる大味ゆえ雑に見える演出の違和感を、終盤の種明かしと田中圭さん演じる森宮さんで全部ねじ伏せられた感じ。

そりゃブラジル行きを1人で決めるのは勝手だよ。梨花もエキセントリックすぎる。演出・脚本面でも、例えば同級生と仲良くなるシークエンスは不要に感じるし、青森の家で他人の手紙を暗唱する無神経さにはびっくりした。そもそも時系列レトリックがあざとくてうるさい。正直かなり粗は多い。

どうなるんだろうと思ってたところ、梨花が病気だったんだとの説明を受ける。いや病気でも一緒に居たいよ!とほぼ優子と同じことを思っちゃう。そのアンサーとしての「2度も母親を死なせちゃいけない。フラッといなくなった方がまだ希望がある」という泉ヶ原さんの説明に、梨花の優しさに気づきハッとする。この一連が本当に見事で、「好き勝手だなあ」というモヤモヤを優子と一緒にほぐされた感じだった。

また、このシーンでは「梨花の病気に気づけなかった、森宮さんのせいだ!」と優子が発する理不尽としては作中でおそらく唯一のものを森宮さんにぶつける。一方「たとえ死んでいたとしても、梨花に優子は会いたいはずだ」と森宮さんは優子の気持ちをドンピシャでわかっていた。子は親に無茶を言う、親は子をわかって受け止める。血のつながりをこえた、父娘の絆を端的に感じることができて素晴らしかった。

とはいえ、個人的にはやはりブラジル行きを選んだ水戸も、優しさがあったとはいえ消える選択をした梨花も「自我」を選択しているなあとは思う。それはけして悪いことではない。一方で森宮さんが結婚を許すきっかけが、早瀬くんが「自我」を捨ててピアノの道を選んだことなのがとてもよかった。自分が他者に喜びを与えられる最適な手段はどれなのか?そして結婚する相手に苦労をかけない道はどれなのか?をふまえた選択を尊重しているから。

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・とにかく田中圭さんこと森宮さんが最高。父性にとらわれるウザさはあるものの、天然ぽい感じがぴったりマッチしていた。ベストオブ継父。結婚の報告をうけ「俺みたいな理解にあふれる父親なら祝福するしかないよ」と名台詞を吐いておいて、次のターンでは「ダメだ!」と一瞬で手のひら返し。実の父親の手紙を読めないという優子に「確かに。梅干し送ってくれ、とか書いてあったらもう手遅れだから困っちゃうもんね」ときた。ダメだ、めっちゃズレてる。その後に「え?なんで会いに行かないの?実の父親だよ?」キュートすぎて本作のヒロインでしょ。

・田中圭さんは、同年作品の『哀愁しんでれら』では父性にとらわれて完全に別のベクトルに突き進む役を怪演している。なんとなく真逆のキャラ設定よりは似て非なるものの方が難しいはずだから役づくりすごいですよね。
金宮さん

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