ブラックユーモアホフマン

田舎司祭の日記 4Kデジタル・リマスター版のブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

4.1
私も「線が細そう」と言われて少しそのことを気にしたことがあったが、その時はむしろ褒め言葉じゃないかとポジティブに捉えることにした。

線が細い、ということは他人の気持ちを考え慮ることのできる人間だということじゃないか。例え多少社会との折り合いがつけづらくても、社会の中で生きるために図太さを学習し、他人の心を傷つけても見て見ぬふりする自分を”逞しく生きている”と誇るような大人より、よほどマシじゃないかと。

しかし本作の主人公は私の比にならないほど不器用だ。

良い人ほど早死にして、性格悪い奴ほど長生きする、というのは決して迷信ではなくファクトだと思っているのだけど、まさにそんな主人公。

刃のように鋭いピュアさで俗世に汚れた大人たちを切りつけていく危うい若き司祭が田舎の村に殴り込んでいく。

宗教家としてのスタンスを頑なに貫く彼の導きによって態度を変える人もいるが、果たしてそれを救いと言うならあまりに悲惨じゃないだろうか。

自分の本心を偽り、神=愛と向き合うことから逃げて生きていた方が幸せだったんじゃないかと俗世に汚れた私は思ってしまったりもするし、現に彼の行為は多くの人々に理解されず受け入れられない。

映画冒頭から既に体調を崩している彼が、この世界で生きるのに向いていないことは明らかで、神は、宗教はまた彼にも”救い”をもたらすのであったが……。

【一番好きなシーン】
・バイクに二人乗りさせてもらうシーン。若くして悟りきってしまい老人のような主人公が、初めて年相応の若々しい行為をして少し楽しそうなのが、もっと早くこんな人生もあり得たと気づいていればと切なくもなるが、人生は、世界は捨てるにはやはり勿体ないものかもしれないという、一抹の希望も感じさせる。