なすび

草の響きのなすびのレビュー・感想・評価

草の響き(2021年製作の映画)
5.0
めちゃめちゃよかったぁぁぁ…。『草の響き』読んだときがなつかしいなぁ。カフェ行ってて友だちは作業し始めたんだけど私はすることなくて友だちが「今本持ってるけどこれ読む?」って貸してくれたのが『きみの鳥はうたえる』の単行本。その中に草の響きも一緒に収録されてたから流れで読むことになった。もちろんきみの鳥はうたえるもすごくよかったのだけど、私が大好きなランニングという要素があることや、もっと暗い死の存在が近いことに惹かれたのか草の響きの方が心に残った印象がある。ものすごい重い絶望を抱えているのになぜこんなにじめじめせず淡々とした文章が綴れるのだろう、と佐藤泰志を好きになったきっかけの本です。

さて映画の話。とてもよかった。製作発表された時から楽しみにしていてさらに東出昌大が主演ということでめちゃくちゃ期待していた作品だけに逆に自分の中のハードルが上がりすぎて手を出せなくなってた笑 でも今日はアイヌモシリ見て北海道気分を高まりに高めてのもう今日しかないって勢いで見た。

キャストが最高。ほんとにほんとにこのキャストを集めた方天才です…。ありがとうございます。もちろん素晴らしい俳優たちをいかに生かすかという撮り方も素晴らしいんだと思うんだけど。

東出はやっぱり、俳優になるため生まれてきたひとだ。この人にとっての転職とは俳優であり、芝居をしているときが一番東出が人間として輝いているときである。本当にこの人の声がいい。声がいいっていうのは声質がいいとかイケボとかそういうんじゃなくて、信頼できる声なのだ。信頼できるというのは東出が言っている台詞が台詞じゃなくてそのキャラクターからそのまま出てきた言葉だと信じることができる、その物語を信じることができるような声だと思う。俳優にとって顔とか動きとか見た目の演技ももちろん大事だと思うけどそれより何より彼らの語る言葉というのは最もダイレクトに彼らの性格を表したり何かを伝えるものだから、声で信頼できなかったら全てが嘘に見えてしまうと思う。東出の声はなんていうか、張っているのじゃなくて包むような声です。まるで目の前の人(目の前にいる俳優)に対して話しかけたり、反応しているのではなくて、その場の空間内に自分という存在を吐き出しているような、もっと言ってしまえばもはや自分と対話しているようなところがある。なんか私にとってはそれこそが芝居であり、演じる、それを観客に見られるということ、なんじゃないかと思ったり。

対する妻役の奈緒さん。じつは、奈緒さんが出演する映画を見るのははじめて!名前だけ聞いていてすごく気になっていた方です。今回、この映画で出会えて本当によかったと思えた。主人公に東出をキャスティングしたのと同じくらい妻役に奈緒さんをキャストした人は大天才。これだけで歴史に名を刻まれる権利があるぐらいです。最初、奈緒さんが出てくるシーンから、もう出立ちというか、顔というか、それ見た瞬間から「うわっっっ」と思い、話し始めてもう「最高ッッッ」恋に落ちてました。いや、恋に落ちたっていう感じでもないのよ。なんかもう奈緒さんの魔力に囚われたというか。恋していい対象ではない、一気に尊敬の念がぐぐぐと高まって、すごい奈緒さんを見るだけで緊張感がありました。前もなんかのレビューで書いたけど私が好きな映画はずっと心地よい緊張感が続く映画だと。これも本当にその通りだった。原作を読んでいてしかもうろ覚えだったせいもあるかもしれないけどずっと誰かがいつか突然死んでしまうことを恐れていた。佐藤泰志の小説を読んでいると、なんか誰かが突然死ぬことに納得のいく理由なんてないというか、昨日まで以前よりは良くなっていたように見えていた人が今日はもう突然だめになるとか、死んでしまうとか、そういうことが起こるんだというのがずっと心の中に忘れちゃいけないルールのように漂っていて、ずっと不安になるんだよな。そう、それで奈緒さんも声がすごくよかった。東出に負けないくらい恐ろしい声を出すね。この夫婦いつ離婚するんだろう…っていうくらいお互いがけっこう限界ギリギリで生きている感じがしたけど決して声を荒げない、あくまでクールなトーンで語られる台詞がまぁささるささる。妊娠発覚してソファで押し問答するとこなんか氷点下100度とかの戦いやった。そんで、最後奈緒さんが東京に行くためにフェリーに乗ることを伝える場面で、「飛行機だと犬は貨物になるけどフェリーだと一緒に乗れるから」みたいなん言ってる時の声が、話し方が、めちゃくちゃ田中裕子に似てて、その時突然自分は思い出して調べたらやっぱり奈緒さんの尊敬する女優は田中裕子やった。もうなんかすごいその瞬間雷落ちたくらい衝撃を受けた自分は。尊敬する女優に田中裕子を挙げるなんてもうさすがすぎて言葉が出ないわ。しかも本当に似てるからね、すごい、、、そのままの路線でこれからのご活躍を楽しみにしております。

大東俊介もいいよね。この人地道に演技頑張ってると思うからもっとみんなに注目されてほしい(何様目線)。東出が土手で泣いてうずくまってる時に「パンとか買ってこよっか?」って言えるのやさしいなぁ。東出と奈緒さんと大東俊介、3人がすごくいいバランスだった。

高校生二人とお姉ちゃんもめちゃくちゃよかった。こんな若い子で初めて見た人たちなのにめちゃいいと思ったのは監督とかのすごさなんかなぁ。お姉ちゃんモデルかなんか⁉︎脚長!!!伊藤沙莉をあしながにしたような気さくな雰囲気があった。あの高校生二人がさ、お揃いの靴履いてたりお揃いのジーンズはいてたりしたのはどういう意味があったんやろう。
この三人組も、主人公と妻と友人も、きみの鳥はうたえるでも、佐藤泰志は女1男2の組み合わせが好きなんだなぁ。しかも毎回三人が絶妙なバランスで繋がってるのがいいなぁ。
(追記)原作では高校生二人とお姉ちゃんじゃないし、妻も出てこないらしい😱私もう原作のことすっかり忘れて、でたらめなこと言ってました💦
そう考えると、そんなに原作と変えてもしっくりきてるこの映画想像以上にすごいものだったんだってじわじわきてます

主人公と妻と主人公の両親四人で食事するシーンで、父親が「せっかく東京の大学出てアルバイトみたいな仕事なんてどうなんだ。公務員試験でも受けてみたらどうだ?お前は頭がいいんだから勉強すれば受かるよ」って言って主人公が怒って言い返すところ、まじでまじでまじで共感の嵐だった。わかる。親父は俺のことを何にもわかってないんだなって無力感に襲われる。

いや、かなり長く書いてしまった!そろそろここで終わりとする。この監督の次作が楽しみであるし、相変わらず東出はいい役をもらうからこれからも出演作見続けねばな。それから、奈緒さんも。とにかく今は北海道に行きたくてたまらない。佐藤泰志の故郷函館に行きたい。この映画の函館を見ているとまさに佐藤泰志の小説の舞台にぴったりで、いやもともと函館を舞台にして書いてんだから当たり前というかそりゃそうだろということなんだけど、ほんとにしっくりぴったりきてしみじみいろいろよかったです。
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