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サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)のOguのレビュー・感想・評価

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「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」は1969年の6月から8月にかけて6回にわたり30万人を集めたフリーコンサート。7月は20日に行われ、その日は人類が初めて月面に降り立った日でもあった。
取材に訪れていたTVリポーターが観客に訊く。
「今日、アポロが月に降り立ちましたが?」
「とても素晴らしいことだと思うよ。でもそれよりも重要なことがあるというだけのことさ」
「それがこのコンサートだと?」
「そのとおり」
街頭でのインタビュー映像がカットインされる。白人たちは人類の、アメリカの偉業を褒め称えていた。一方黒人たちは、宇宙に行ったり戦争をする金があるならその金で黒人を、貧しい人々を救えと訴えていた。戦争とは当然ベトナム戦争のことだ。
「サマー・オブ・ソウル」は、半世紀もの間金にならないという理由で忘れ去られていた「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」を収録したフィルムを蘇らせた貴重な記録である。しかしそれだけではない。
これが初監督作品となるクエストラブは、コンサート映像の合間を縫うようにして様々な記録映像をマッシュアップさせた。この時代に起きていたこと、黒人がおかれている状況は現在に至るまで何も変わっていない事実を浮かびあがらせてみせるために。もちろんリズムはしっかりとキープしながら!
観客はソウル・ミュージックが、音楽が、黒人たちにとっていかにかけがえのないものであるのかということを知り、歴史はもう1ページあったのだということを知る。
そしてクエストラブがエンドロールの前とあとに見せてくれた、とりわけ前者の映像は感動的で美しかった。インタビュイーのひとり、4歳のときにフェスティバルを目撃したというムサ・ジャクソンはこの映画の、間違いなくもうひとりの主人公だ。
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