ツクヨミ

成れの果てのツクヨミのネタバレレビュー・内容・結末

成れの果て(2021年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

"私より幸せになろうなんて絶対許さない"
東京に住んでいる小夜に届く姉の結婚報告、その相手は絶対に許せない男だった…
誰も幸せにならない緊迫のスリラー。今作は全編に張り詰める緊迫感がえぐすぎて吐き気を催すようなインパクトがすごい作品だった。まずオープニング、姉のあすみが妹に電話をかけるシーンからしてかなり不穏な雰囲気が漂っており布施野という名前を出してから電話越しに響く妹の呼吸音がなんともヤバイ空気感を匂わせている。
そして妹の小夜が家に帰ってきた瞬間に始まる"会話"という媒体での惨劇。小夜演じる萩原みのりの食い気味で迫るようなセリフもそうだが冷ややかさが全開の喋り口がインパクト大、そして彼女に言い寄られ恐怖する登場人物たちの佇まいと同じように鑑賞する側も恐れ慄いてしまう会話劇がエグく胸を打つ。
また今作は田舎民家というワンシチュエーションでのスリラードラマであるが、ズームインとズームアウトがホラー映画みたいなカメラワークだった。オープニングBGM一切なしでゆっくりとズームしたりいろんなカメラに切り替わるような編集の仕方が少々不気味であったり、小夜が家に着いた途端にカメラワークが斜めになったりと見るものを不穏にさせるのは実にホラー的。
そして今作の登場人物たちのなんともクズで人間臭いことか。人の不幸を利用して社会的地位や名声を掴もうとしたり、犯されたことを忘れられず復讐のため行動したり、破局に付け込んで付き合いを迫ったりと人間の醜い部分を嫌というほど見せていく。鑑賞後の胸糞さもそうだが今作に溢れる雰囲気は"空白"や"由宇子の天秤"を想起させる。
またラストの展開は小さなどんでん返しもあってかなり驚かされた。今まで小夜の復讐劇として見ていた話が、実はあすみが彼氏を取られる愛憎劇だったとは…脚本もそうだがラストまで一番穏やかで一般人だったあすみが事実に憤慨しあそこまで嗚咽を見せる。映画的な驚きと面白さが一気に押し寄せ頭が真っ白に。
胸糞さ溢れるクズたちの会話劇に胸を打たれ、ラストのどんでん返しに驚かされた秀作スリラーだった。なかなかの衝撃でもう見たくない映画のはずなのにもう一度見たい。こんな胸糞映画は新感覚。
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