ぺんじん

こちらあみ子のぺんじんのレビュー・感想・評価

こちらあみ子(2022年製作の映画)
4.6
これはやられた…小学生のほんわか成長ストーリーだと思ったから、こんなヒリヒリする映画だとは思わなかった…参ったな…
他人の感情を読み取れず、自分の欲望の赴くまま行動する主人公のあみ子。今の言葉でいうとADHDっぽい感じがあるのだけど、彼女の内面にはあえて踏み込まず、あみ子と家族、そして友達の関係性の変化をドライに捉える絵作りになっている。
あみ子が小学生という事もあって最初は微笑ましいのだけど、ある事件から家族はバラバラに。あみ子自身は悪気が無いのだけど、彼女の飾りの無い行動によって一見普通の家庭に見えた人々の綻びがどんどんと顕になっていく感じがかなり苦しい…。作風とかは違うけど、普通の家庭の綻びを描いたといえば森田芳光『家族ゲーム』が近いんだけど、こちらの方が戯画的で無い部分内臓にくるダメージがあるよ…辛い…
あみ子も子どものままではいられず、中学生になると学校の中での権力ゲームの中に放り込まれてしまうリアル…コミカルに描かれている部分もあるけど、彼女が学校に馴染めずボロボロになっていく様も辛い…次第にあみ子は自分だけが聴こえる音に振り回されるようになっていく…
あえて共感できる部分を作り過ぎず、あみ子の純粋な視点から普通の家族の崩壊を映像と音だけで表現するスタイルが素晴らしい。繰り返される生命の「水」のイメージと通じ合う事の出来ない「言葉」と「音」のイメージ。あみ子の孤独な騒がしさを静的な画面構成で客観的に捉える映像がたまらない!照明もナチュラルだし、音と音楽の入れ方も抜群なんだよな。
「こちらあみ子、こちらあみ子」片方しか無くなってしまったトランシーバーに話しかけた言葉は誰にも聞かれる事は無く、虚しく宙を漂い続ける。
あみ子の思い描くファンタジーな世界と残酷な現実の対比が鮮やか過ぎて苦しい。最後は少し希望が持てる終わり方で良かったな…。
複雑な人間関係の難しさを複雑なまま提示する、映像と音の素晴らしさに脱帽!見逃すところだった…これは凄いぞ…
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