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スティルウォーターのsanchangのネタバレレビュー・内容・結末

スティルウォーター(2021年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

オクラホマに住む白人労働者階級の男性と、マルセイユに住む舞台女優の交流がこれほど意味を持つのは、トランプやコロナ以降、さらに顕著になった世界の分断のせいだと思う。

フランス留学中に殺人の罪に問われ投獄されている娘アリソンに会いに行く父ビル。アリソンからの新事実の訴えを弁護士に伝えるも弁護士は動かないため、ビルが自ら真犯人探しに奔走する。フランスでの真犯人探しに協力するのは、滞在先のホテルで出会ったマルセイユに住む舞台女優のヴィルジニー。そしてビルは彼女の9歳の娘のマヤとも仲良くなる。ビルにとって真犯人探しのはずが、3人の不思議な擬似家族生活が始まる。普通に暮らしていれば絶対に交わることのない属性の2人が、マヤを通じて心を通わせていく。仕事のため、共に過ごせなかったアリソンとの時間を埋め合わせるように、マヤとの時間を紡いでいくビル。サスペンス映画と聞いていたのに、擬似家族の幸せそうな時間がめちゃくちゃ長い、もともとの家族を失った3人が、幸せなまま映画が終わればいいのにと思った。

ビルは、アルコール依存や薬物の使用経験もある元犯罪者。1日の仮釈放時にアリソンがヴィルジニーに「彼に期待しない方がいい」と伝える。
過去の家族への後悔を糧に擬似家族への献身を続けるが、アリソンの言葉通り、彼のある行為がヴィルジニーとマヤを犯罪に巻き込んでしまう。信頼を失った彼は家をでることになる。新しい家族への献身が終わり、ヴィルジニーとマヤとは別れることに。アメリカ南部の白人男性が異文化を受け入れ、もう一度家族を作り直す過程を描き込んでいたので、別れのシーンはめちゃくちゃ泣けた。

サスペンス的な要素も面白い上に、マルセイユの美しい海、そして白人労働者階級とフランスの舞台女優という人物設定、さらに新旧2人の娘への愛から、家族を再構築しようとした男の物語など、かなり多面的な魅力をもつものすごく良い映画。
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