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前科者のGKのレビュー・感想・評価

前科者(2022年製作の映画)
4.0
WOWOWドラマを(アマプラで)観てからの鑑賞。

まず有村架純の演技が素晴らしい。この作品の前スクリーンで彼女を見たのは『花束みたいな恋をした』だったが、それとは違う「弱くて、だけど自分がこれだと決めた方向に必死に向かっていく、良くあろうとする人」を演じていた。

ドラマ、映画を通してそんな彼女の演技を観ていたから、終盤のみどり(石橋静河)の発言(「佳代ちゃんは〜だから安心する」)がとてもしみる。

テーマは非常に難しいものを扱っていると思う。定義はしっかりしたものがあるだろうけど、保護司の役割は共通の言葉にできるようなものではないことを実感させられる。
犯罪を犯し刑務所で刑期をつとめた人たちのバックグラウンド、心情は複雑だ。保護司は、そんな前科者たちと真正面から向き合い、半年の保護期間を過ごすことになる。
保護とは言わば「ケア」のことであり、何がケアかは各前科者それぞれ。だからこそ難しい。

しかし「ケア」を考えることは非常に重要だと思う。劇中でも孤児院の子どもに薬を飲ませ大人しくさせる話が出てきたが、それは「治療(FIX)」の考え方だ。時に治療は本人のためではなく治療する側の意向によってなされ、治療される側のためにならないこともある。治療とは「悪いところを治す」ということで、「問題となっている箇所の否定」とも言える。
一方でケアは「悪いところをまず受け止める。そしてどう良くしていくか、変えていくかを当人主体で考えることをサポートすること」だ(私の定義)。
全く考え方が異なる。

100%どちらがいいということはないのだが、「取り締まる」思想が強い制度が多い日本において、「ケア」は考えるべき視点ではないか。
そんなことを映画館で感じていた。

最後に、本作は決して演出が派手なわけではない。サスペンス調をさらに強く出すことはだきただろうが、そうしていない。また結論も決して美しいものではない。むしろ厳しい現実をそのまま映すものだった。有村架純演じる阿川先生が保護観察官になった理由も、地に足がついたものだ。

だけどそれがいい。だからこそ『前科者』はいい。そう思える出来栄えだった。
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