武者鬼

ディア・エヴァン・ハンセンの武者鬼のレビュー・感想・評価

2.0
作品自体はかなり良くできています
しかし、心が弱い人が見た場合とても悪い方向に感情が揺さぶられます
自殺を一瞬でも考えたことがある人は気をつけてください
おそらくかなり危険な作品だと思います

この作品のエヴァンハンセンはとても弱くそして同時にとても強いです
そのため物語としては彼の奮闘や苦悩をとても多くの人が共感できると思います
しかし強さの方が尋常ではありません
作中では自殺すらも選択肢から取り上げる非情な状況にされてしまいます

心が弱い人なら分かると思いますが自殺を考えるのは一種の救済だという認知からきます
苦しまなくてもよい、もう迷惑をかけない、努力をしなくてもいいなどなどです
それを取り上げられる絶望はかなりのものです
少しネタバレになりますがそれすらも乗り越えてしまいます

ただそんな人間離れした聖人なようなことを行える主人公に共感するでしょうか?
違います、彼と同じと思っていたのに彼とは違うんだという諦めの感情になります

さらにこの作品では同情や共感を抱いてほしいために様々な社会的に弱い人が出てきます
印象的で的確な表現が作中で出てきます
「君は弱くは見えないけど」
「私は匿名になるのが上手いのよ」
エヴァンハンセンもまわりの人間も弱さを隠して普通に見られようと生きている私自身もまたそうであるというのがこのセリフで一気に共感を得ることでしょう
だからこそこの世界の一員のような気分にさせておきながら作中ではこのあとバッシングをし始めてしまいます
事情を知らないにしてもその世界にいたら自分も同じようなことをしてしまうかもしれないと観客は思うことでしょう
そしてそれを乗り越える主人公
圧倒的な強さの前に自分の弱さをみんな抱いてしまうと思います

映画の脚本は秀逸で素晴らしいと思います
でもだからこそ良くなかった
私はこの作品を見ず知らずの人にはおすすめできません
その人を知らないうちに傷つけてしまうかも知れません
作品が良くてもこの作品は間違いなく一定の人間を傷つけていると思います
観客の傷を癒やす作品じゃなく傷をひろげてしまっていますよ

もちろんだからといって公開をやめろなんて言いませんが観客は自衛できません
これから見る方は気をつけてください
武者鬼

武者鬼