足拭き猫

東京クルドの足拭き猫のレビュー・感想・評価

東京クルド(2021年製作の映画)
3.8
バスから入管に来る人が続々降りてくるところをみると、入管の業務自体が相当ひっ迫しているのが見てとれた。そこで働いている人は、一人一人の事情に対応する時間も気持ちの余裕もなく、もともと力がある立場でもあるので、入管にくる外国人に対して「人を大切に」という態度とは程遠かった。ウィシュマさんが医者にろくに診てもらえずに亡くなった後、医療体制を整えることになったようだが、それまでは収容人数の多さに対応できていなかったということだよな。

海を回りに囲まれている「単一民族」の日本では、普段から自分と違う人種の人が周りにたくさんいて町を歩いているのや外国人コミュニティが身近にある国と比べて、「外国人」という人に対しての感覚が全然違うのだと思う。
しかし、例えば労働力が不足しているからと研修生の名目で人を入れているのに彼らをきちんとケアできていないことからもわかるように、そうやって都合よく使っているのに彼らの健康や安全を守る仕組み自体がきちんと無いのは間違っているし、同じように、難民として受け入れた人やその家族に対する仮放免も制度そのものがだめなのだと思う。

日本の組織というのは変化をするのに労力を尽くさない。制度がおかしくてもそれがボロボロになるまで変えることができない。それは組織に対して意見を言う人がいないことや内部の意志決定の遅さ、あるいは違う方面の利益を優先しているからだろう。
人間個々を大事にすることができない自分たちの国のそういった面をまた突き付けられた。

オザンくんは父親がダメだと言っていたが、父親はクレーンの資格を取って家族のために働いていると言っていたので確執部分がどこなのかいまいち分かりづらかった。青春期の悩みに加えて自分が置かれている先のない立場と重なっているようにみえた。
背景音に紛れて声が聞き取りづらい部分が冒頭にあったので、字幕があるとよかったかも。