とらキチ

グレート・インディアン・キッチンのとらキチのレビュー・感想・評価

4.5
これ以上ないぐらいのメッセージが込められた強烈な一本。
タイトルからしてアイロニー。
高位カーストの男女がお見合いで結婚する。由緒ある家柄の出の夫に対して、中東育ちでモダンで合理的な生活様式に馴染んでいた妻は、夫とその両親とが同居する婚家に入るが、台所と寝室で夫と義父に奉仕するだけの生活に疑問を持ち始める。
あー、胸糞悪い!てゆーか「お前らマヂで牛の糞でも喰ってろよ!」とつい言いたくなってしまう(何故牛糞かは観て頂けるとわかります)。男である自分でもそう感じたのだから、女性からしたら如何ほどか。まー、エグい。
インド映画で女性蔑視や家父長制、伝統的ヒンドゥー社会での「穢れ」観が取り上げられる事は多いけど、今作においては、これらの問題の普遍性を訴えるために、敢えて登場人物に名前が与えられていない。つまりは特別な事例ではなく、どこにでもありふれた事象である、という事を示している。
ドキュメンタリーのように、淡々としたタッチで描かれ、初めは毎食の調理の際の、包丁で切ったり、フライパンで炒めたり、煮込んだりする時の美味しそうに聴こえていた調理音が、後半では、あたかも呪いのような音に聴こえてしまう。
女性の生理に関する「穢れ」観の描写もなかなかで、「パッドマン」でも描かれていたが、その期間中の妻は、“不可触民”の家政婦以下の扱いで、別室に隔離されてしまうというのが恐ろしい。そんな器の小さいクズな夫は教師をしていて、女子生徒の前で偉そうに結婚や家庭を語っているという皮肉。そしてラストの展開もなかなか。
また今作では「ヒンドゥー寺院の女性参拝者締め出し問題」についても言及する。その寺院では伝統的に女人禁制(初潮から閉経までの間の、子供を産める状態の女性の入山禁止)を敷いていたが、女性の法曹関係者による「両性の平等や信教の自由を謳う憲法に反する」という訴えが2018年に最高裁で結審し、女性参拝者の排除を違憲とした。この判決を受け、女性が寺院への参拝を試みたが、ヒンドゥー原理主義派の妨害に遭ったり、判決そのものに反対する人たち(女性も含む)の示威運動が盛んに行われてたりしている。
上映時間100分と、インド映画にしたら短いじゃん!って思って臨んだら、あまりにシンドすぎて、とても疲れてしまった。コレが150分とかあったらメンタルやられてしまうところだった。それでも最後、踊ります。でも、よくよく考えたらあの踊りも、あの家で延々と捧げられていたヒンドゥーの神様を讃えた踊りだったのかもしれない。確定的な事は言えないけど、だとしたらメチャクチャ皮肉が効いている。
「THANKS SCIENCE(科学に感謝)」
冒頭掲げられるこの言葉に、監督からの強力な意志を感じる。
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