Hiroki

レッド・ロケットのHirokiのレビュー・感想・評価

レッド・ロケット(2021年製作の映画)
4.1
まず今作と関係ないんですけど、WGA(全米脚本家協会)が15年ぶりにストに入ったというニュースが。
ちなみに前回は100日間にも及ぶストで、今回もこのくらい長期間になるとドラマはもちろん映画も大きくスケジュールが変更になるのではないかと予想されています。
ただ近年の動画配信プラットフォームの乱立やAIの進化によってかなり脚本家という立ち位置が揺らいでいて、一筋縄ではいかないとの予想が大方のようです。
ちょっとこのニュースは映画好きは注視していかないとですね...

さて今作は2022カンヌのコンペ作品。
アメリカのインディペンデント界を担うショーン・ベイカー×A24の最新作。
私が観に行った時はGW真っ只中で公開劇場数が少ないという事もあり中規模劇場が満員!

インディー映画なので興収はあまり言ってもあれなのですが、北米で約100万ドル(約1.3億円)全世界で約230万ドル(約3.1億円)とちょっと厳しい数字ですかね。
そもそも日本以外では2021-22に公開されている作品で既にソフト化もされてるようですが。

過去作のレビューでも書いたけど、ショーン・ベイカーの特徴は“ある土地”דそこで暮らす物質的に底辺の人々”を描く事。
『タンジェリン』ではLA×男娼、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』ではフロリダ×シングルマザー、そして今回はテキサス(ガルベストン)×ポルノ男優。
まーここの絡め方が非常に上手い。

さらに観る人に徹底して感情移入させない。共感させない。
今作でも主人公マイキー(サイモン・レックス)はスーツケースピンプ(アメリカポルノ業界のスラングで要は最低のクズ一直線野郎という意味)ではあるが、程度の差こそあれ周囲の人々もなかなかのダメダメである。
マイキーに頼りっぱなしの元妻とその母、ドラッグディーラーで生計を立てる同級生の家族、軍人になりすます隣人、そしてクズ一直線男にハマる女子高生。
だけどその底辺で生きる人々を「かわいそうだよね」という同情で描くわけでもなく、「こいつらに問題があるんだ」と批判で描くわけでもない。
あくまでその事実をフラットに描く。
そしてそこに足される絶妙なユーモアセンスこそが彼の真骨頂。
でもやはり私は感心してしまうんですよ。
結構絶望的にどーしようもない人たちの集まりなんですよね。
もちろん彼ら彼女らをそーさせたのは誰か問題もあって、そこはトランプvsヒラリーの大統領選の時期のお話なのでその実際のニュース映像なんかを使って当然絡めてはきてます。
そーいう要素はもちろんあるけど、やはり絶望的な人々のお話。
特にクズ一直線のマイキーの語る、我々なら誰もが無謀だと感じるような夢物語に希望を抱くストロベリー(スザンナ・ソン)は救いようがない。
でもね、それでもまだショーン・ベイカーはそれをユーモアで描くんだなって。
適当な夢とか希望とかお涙頂戴の感動物語には絶対にしない。
絶望的なディストピアの社会派物語にもしない。
そーいう時は笑うしかない。
ユーモアしかないじゃんって。
それこそが私たちに残された切り札なんだって。
ここらへんが本当にショーン・ベイカーの素晴らしい所というか、恐ろしい所というか...

あとはやはり圧倒的な映像美ですね。
今回もガルベストンの街がパレットのように色付いて、そして様々な姿へと変化していく。
この明るく澄みわたるような映像もまたショーン・ベイカーの特徴。

テーマ、セリフ、映像とここらへんのバランス感覚が非常に巧妙。
ここが彼の映画を魅力的にしている1番の要因だと思う。

キャストは軒並み素晴らしいです!
元ポルノ俳優だったマイキー役のサイモン・レックスも良いし。(レックスは実際に当時の映像流出で業界から姿を消していた時期がある...)
ドラッグディーラーのビッグママのレオンドリア役ジュディ・ヒル&その娘のジューン役のブリトニー・ロドリゲスもめちゃかっこいい。
しかしなんといってもショーン・ベイカーが直接スカウトしたストロベリー役のスザンナ・ソンが素晴らしい!
もーこんなに魅力的な女優に久し振りに出会いました。
ちなみに高校生役だったけど彼女は27歳らしいです。(撮影の時は24歳くらい?)
そしてつい最近ガールフレンドと婚約を発表!おめでとう!
これからもたくさんいろんな作品で観れると思うので、注目していきたいと思います。

ショーン・ベイカーの新作はまたもセックスワーカーに関する物語で今回や過去作とテーマは重なるものの、別のアプローチを試みているとの事。
既にクランクアップしているとの事でこちらもまた楽しみです!

2023-28
Hiroki

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