けいすぃー

パリ13区のけいすぃーのレビュー・感想・評価

パリ13区(2021年製作の映画)
4.1
僕はパリに住んでいた。通っていたのは13区の大学だった。物語の舞台となったマンションの1棟に友人が住んでいて遊びに行ったこともあるし、マンションの間の広場は大学から中華スーパーに向かうときに抜けていた道だ。様々な思い出を想起させてくれる、独特な雰囲気を持ったパリ13区を描いた作品。そういった意味でも感情が入り込んだ。

全体的な感想として、特別感はなく、ありふれていて手で触れるような、俗っぽい雰囲気がたまらなく愛おしく感じる作品だった。

メインキャラクターの設定もリアリティを感じさせるものだった。
まず、中華系移民の娘のエミリー。13区には中華街があり、多くの移民がいる。特に不動産を買って数世代に渡り暮らし、今の若者はパリ生まれというケースは非常に多い。政治学院という名門を卒業しながら定職につかない様子は、お金をあまり必要としない家計状況や、彼女の奔放な性格、またはフランスに於ける就職の難しさを表していたのかもしれない。
黒人男性のカミーユは高校の教師だ。ながらくフランスにおいて高校教師というのは最も尊敬される職業の一つであり、彼の勤勉さが伺える。もちろんその職業には白人が多かった訳だが、黒人の彼がいることが近年のフランスを上手く描写している。
白人女性のノラはボルドーからパリに移り住んできた。地元で働いたのち、30代で大学に戻るが、これもフランスにおいては珍しいことではない。学期初めの交流会がクラブでのイベントなのも一般的だ。

エミリーが住むアパートの一室にカミーユが移り住むところから物語は始まるが、シェアハウスもパリの若者にとってはよくあることだ。そして2人は身体を交えつつも、心はすれ違い始める。
オムニバス的にノラが大学に入学するが、その2つの物語は次第に混じり合っていく。
性に開放的でありながらも、なかなか素直に生きられない若者の淡い苦悩を描いていて、多くの人が共感できる部分が多いように思う。
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