まつき

コンパートメントNo.6のまつきのネタバレレビュー・内容・結末

コンパートメントNo.6(2021年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

めも

○なんとなーくクリップ(チェック)していたこの作品。批評サイトのスコアが上々だったから、だと思う。公開日が近づいてきた頃、再度目に止まって少し調べてみると、あの『オリ・マキの人生で最も幸せな日』の監督の新作ではないか!と気づく。プロボクサーの男が恋に落ち、世界タイトル戦だというのに試合よりも恋の方が夢中だからとボクシングどうでもいいみたいになっちゃう、あの最高な映画。私の2020年ベストワンの作品。監督の名前も全く覚えていなかったが、ここで改めて認識した。「ユホ・クオスマネン」!オッケーあとは鑑賞するのみ!

○『オリ・マキ〜』と同じく、愛らしく、可笑しい、めちゃくちゃ私好みの映画だった。描かれている大切な部分にも共通点が見出せる。現在置かれている立場や役割に縛られて、今の自分が本当に大切にしたいことや楽しいことに踏み出せずにいる。自分の気持ちに正直になれずにいる。そこからしがらみを思い切って捨てて、歩みたい方向へと一歩を踏み出し、幸福を手にいれる。そんな「自分の本当の気持ちに素直になる」大切さが、両作に通底していると感じる。ラウラがリョーハと繋がりの深い老婆(祖母なのか母なのか育ての親なのかただの知り合いなのか)と食事を共にするシーンで、老婆がそのことを直接的にいう。「女性は賢いの。自分の気持ちをちゃんとわかっている。それに正直になればいいのよ(うろ覚えだったけどパンフにあったから引用、正しくは→内なる自分を持っている、女性はとても賢い。心の声を信じて生きるの)」と。

○ラウラもリョーハも孤独であり、それに絶望している。ラウラは、恋人こそいるものの、他人の前で「友達」として紹介されたり、旅行をドタキャンされたり、旅先から電話しても冷たくされる(1回目の電話の時、明らかに周りに人がいたよね。浮気かと思った)。そんな中の一人旅で、孤独が一層強調される。リョーハは、「みんな死ねばいい」というセリフから闇を感じさせるし、ラウラが住所を交換しようとすると「そんなくだらないことするな」と、繋がることを拒む。人との繋がりを信用していないようだ。過去に大きな喪失をしたか、相手に裏切られたかしたのだろうな…。

○そんな2者、国籍、言語、性別、生き方の異なる他者同士が出会うことで、互いを知り、互いに自らを知ることになる。「自分と異なる他者と出会い、知る」ことの希望みたいなものがそこにあると感じた。

○2人が到着祝いで食堂車に行くとき精一杯のおしゃれをしてて可愛かったな。

○リョーハが、疎外感でいじけて電車を降りて雪の球を蹴って遊んだり、寝顔が普通に可愛かったり、マ〜素敵なキャラクター。隣のお客さんツボに入ったらしくずっとクスクス笑ってたな。

○「愛してるはフィンランド語でなんていうの?」「ハイスタ・ヴィットゥ(クソッタレ)」のフリは、ベタすぎるけど、ラストのラウラの表情が心の底から喜んでいる良い演技だったから全然おっけい!

○「自分たちのルーツを知ることは大切よ。過去を知れば現在を容易に理解できる」の受け売り。陳腐な言葉に感じるようになる。

○ラウラが、自分の恋人が女性であることをリョーハに打ち明けた時、リョーハは自然に受け入れていた。

○寒寒とした風景をバックに、失意の女性が一人旅をする、という点で『冬の旅』を思い出した。

○印象的な「ぼやぼや〜フジヤマ〜」の曲。タイトルは「Voyage Voyage」というらしい。アーティストはデザイアレス。日本では1993年にWinkがカバーしており「永遠のレディードール〜Voyage Voyage〜」というタイトルでリリースされている。
まつき

まつき